第32章 師弟
「おおおおおいっ!光希っ!!」
慌てる善逸に、「布団を敷け」と義勇が冷静に指示する。
善逸が敷いた布団に、寝てしまった光希を抱いて運ぶ義勇。優しく横たえると、顔を近付ける。
「ちょ、ちょっと何してるんですかっ!」
「呼吸を確かめてるだけだが?」
「ちちち近いですよっ!やめて!離れてっ!」
押し戻そうとするが、びくともしない義勇。
「もっと鍛錬しろ、我妻。急いで甲になって光希を守れ。長くは待ってくれないぞ。隊も、……俺もな」
威嚇するような目で見つめられ善逸は怯むが、歯をぎっと食いしばって耐える。
そのままふいっと顔を逸し、立ち上がって部屋を出ていく義勇。
「俺は寝る。任せた」
それだけを言って去っていった。
『長くは待ってくれないぞ。隊も、……俺もな』
……なんだよ、それ
義勇の言葉を思い出して、善逸は眉を寄せながら布団の側に座る。
首が、ズキッと痛んだ。片手で首元を押さえる。
……掴まれて、刃を突きつけられても、俺は何も出来なかった
速さも、力も、経験値も、何一つ勝てない。
なんなら、女の扱いも勝てないかもしれない。
ずーん、と沈む善逸。
でも、ただ一つ勝っていると確信出来るのは、光希からの愛だ。
それだけは、信じたい。
信じさせて欲しい。
「そうだよな?光希」
光希はすやすやと眠っている。