第31章 熱
光希は疲れてきたのか、座椅子から布団に移動する。
善逸が手助けをする。
「大丈夫か」
「うん」
善逸が額に手を当てる。
「あっちぃな……」
「早く下がんないかなー……」
光希は布団に潜る。
「あ、善逸、うがいとかしてよ。移るかも」
「そういや昔、移されたことあったな。酷い目にあったぜ」
「くれぐれも、口付けとかすんなよ」
そう言われて心の中で、…もうしましたと詫びる。
布団の隣に寝転んで光希と視線を合わせる。
「……じゃあ、抱きしめるのは?」
「ここが何処だと思ってる?師匠の家だぞ」
「でもさっき……」
「あれは事故みたいなもんだ。よく覚えてない」
「俺より優先するものはないんじゃなかったの?」
「それとこれとは違う。立ち位置的な問題であって、剣士として……」
「わかったわかった、もういいよ!」
これ以上刺激して怒らせないほうがいいと判断した善逸は諦めて体を起こす。
「熱が出てても頑固だなっ」
「死ぬまで治らないよ……」
「でも、そんな光希も、俺は好きだよ……」
「…………」
「え、こういうのも駄目なの?」
「駄目だな。ぎりぎり駄目だ」
「判定が厳し過ぎるだろ」
笑いながら善逸は布団の上から光希を優しく撫でる。
「まあ、寝なさいな。付いててやるから」
「……ありがと」
「俺は客間で寝るけど、何かあったら呼んで。聞こえるから」
「うん。でもお前起きねえだろうな」
「お前の為なら飛び起きるよ。たぶんな」
善逸が側にいてくれる安心感に、うとうとと眠気がくる。
「善逸は本当に、俺の特効薬なのかもしれないな……」
「ははは。俺、凄いのな」
「ああ。善逸は凄いよ。俺の、全てだ……」
「……っ!それは良いのかよ。判定、微妙だろ」
「あ……、微妙かも……俺としたことが…」
「俺が特効薬なら、この先なんでも治してやるから。安心して毒でも何でも浴びてこい」
「特効薬は病気……。毒なら……解毒薬だ…馬鹿……」
「あ」
眠るぎりぎりまで突っ込みを入れて、光希は寝た。
善逸はしばらく様子を見ていたが、客間に移動する為に立ち上がる。
「おやすみ、俺の眠り姫」
片膝をつき、手の甲に口付けを落とした。