第31章 熱
「八つ当たりして、ごめん。胸ぐら掴んで、自分の不安をお前にぶつけて。お前は何も悪くないのに。勝手に悩んで疲れて飽和状態になって崩壊したんだ。ごめん。本当にごめん」
「光希……」
「だから俺はここに来た。義勇さんに、総司令官になるのを断るために」
「……そうだったのか」
「俺は、自分が想像以上に精神的に弱いとわかった。へなちょこのお前と長くいたから、強いと勘違いしてたんだ」
「おい、こら」
「今回の事で俺は、お前より優先すべきものはないと、はっきりわかった」
「光希……」
「だから、まず自分の精神を守ろうとしたんだ。このままだとお前を際限なく傷付ける気がして。隊のことなんてどうでもいい。なんなら辞めてやらぁって思った」
「………」
「依頼断って、気持ち立て直して、お前の元へ戻ろうって思ったんだけど、この様だよ。ごめんな」
光希が苦笑いする。
「何がごめんなの……?」
善逸が言う。
丁寧に説明したつもりだったが、まさかわからなかったのか?と光希は思う。
「何がって、だから……」
「これ、ごめんじゃなくね?」
「え……」
「だって、俺の為にってことだろ?俺に酷い事したって反省して、今後そうならないように対策しようとしたってことでしょ?」
「あー……、うん。そうなるな」
「じゃあ、俺が『ありがとう』ってなるところでしょ?」
「いや、違う気がする。そんな単純な話では……」
「そうなの!」
善逸は無理やりそう結論付けた。
「ありがとう、光希。俺のために断ってくれて」
「う……、うん。いや……」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
なんか違うと思いながら、熱で頭が回らないため、面倒くさくなって受け入れる。
考えていたことがどうでもよくなって笑えてきた。
「はは…っ、俺はお前が羨ましいよ。俺も単純な頭が良かったなぁ……」
「俺だったらあっさり柱になってたよ。鳴柱、かっこいいだろ?ひひひ」
「ああ、かっこいいぞ」
「総司令官もなるぞ。かっこいいじゃん」
「ははは、隊が一瞬で壊滅するわ」
二人はいつものように笑いあった。