第31章 熱
千代が帰ると、当然のことながら屋敷に二人きりになる。
少し緊張する。
とりあえず善逸はお茶を入れて光希の部屋へ行く。光希の分は白湯だ。
「光希、水分取れ」
「うん、ありがと」
お互い、ずずっと湯呑からすする音をさせる。
どちらも話し始めずに、静かな時が流れる。
光希の頬はまだ赤く、熱があるのがわかる。薬は食後に飲んだので、下がってくれることを祈る。
「ごめんな、善逸」
沈黙を破るように光希が口を開く。
「もう何度も謝ってんじゃん。つか、何に対してのごめんなの?」
「うーん、いろいろあるんだ。熱で頭が馬鹿になってるから、一つずついこう」
「え、なにその本格的な感じ。馬鹿のやるこっちゃねぇぞ」
「一つ目は……距離を置こうって言ったこと」
「俺は、これが何よりきつかった。別れるってことかと思った。死にそうだった」
「ごめん。そんなつもりはなかったんだ。俺が自分を保てなくなっちゃって、これじゃ駄目だって思ったんだ」
「心臓に悪いから、もうやめてくれな」
「うん」
「二つ目は……一日だけって言ったのに、帰れなくてごめん」
「それは、病気だったから仕方ない」
「それでも。約束したし、善逸は頑張って耐えてくれたのに、会えない期間が延長になったのは申し訳ないよ」
「まあ、辛かったし、……避けられてるのかとも思っちゃった」
「だよね」
「ほんとに熱出してたけどね。しかも酷いやつ」
「三つ目は、心配かけたこと。俺が寝てる時、心配だったよな。ごめん」
「うん、またどっか行っちまうのかと思って、不安だったよ」
「起きた時、お前が凄い泣いてたから、ああ心配かけたんだなって思った」
「もう、やめてくれな。……といいつつ、あるんだろうな、この先も。俺も強くならなきゃな……」
「ははは。手ぇ握ってくれてありがとな。安心して寝られた。そしたら起きた時、身体が楽になってた」
「これで、全部か?」
「あと一つ……」
「おお、まだあんの?お前、馬鹿になってねぇわ。大丈夫だわ」