第31章 熱
「ねえ、母ちゃん、お風呂一緒に入ろ」
「そうね、一人じゃ危ないわね。一緒に入ろうか」
「うん!」
「でも、善逸くんの後よ。男の人が先」
「うん!わーい!」
自分は一緒に風呂に入るのにあれ程苦労したのに……と、どこか寂しさを覚える善逸。
善逸が驚く程、光希は千代にべったりと甘えていた。やはり、体調不良だと母親が恋しくなるのだろう。子ども返りを起こしている。
母親の強さを思い知る。
「善逸、早く入っちゃって!」
嬉しそうに振り向く光希。文句を言う気にもなれず「はいはい」と答えて、風呂に向かう。
善逸の後で二人は仲良く風呂に入り、体が冷えないように千代は光希の髪を丁寧に乾かす。
「善逸くん。今夜、光希を頼めるかしら」
「あ、はい。客間をお借りします」
「そっか……、母ちゃん帰っちゃうよね」
「善逸くんがいるから大丈夫よ。何かあったら呼びなさい」
「はい……」
光希から聞こえるしょんぼりした音に、俺じゃ駄目なのかよっ…と少しムッとする善逸。
「ん……まだ熱いわね。でも、意識がはっきりしてきてるし、安心したわ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。ここで油断せずに、ちゃんと治そうね」
光希の頭を撫でる千代。
その時は少し、光希を羨ましく思った。
千代にも光希にも羨ましさを感じる善逸。
……ガキだな。俺も
「善逸くん、本当にありがとう。足が痛いのにごめんね」
「いえ。こちらこそです。呼んでくれてありがとうございました」
「そうだ。善逸、足折ってたのに」
「ヒビな。もうほとんど治ってるから」
「抜け道で来たのか?」
「俺一人で村を歩いてたら怪しまれるかなと思って」
「あれは鍛錬の道で、他にも楽な抜け道あったのに」
「……知らねえもん俺」
千代は、縁側で光希を抱きしめていた善逸の体に、沢山の竹の葉がついていたのを思い出した。治りきっていない足で、険しい道を急いで走ってきたのだとわかる。
「善逸くん、光希の為にありがとう」
千代は善逸の頭を撫でる。
「あなたは本当に優しくていい子ね」
その優しい声に、嬉しさが込み上げる。
「……へへ、やった。褒められた」
善逸が、照れながら笑った。