第31章 熱
「……!光希!起きろ!」
声が聞こえて、ゆっくり目を開ける。
ホッとする善逸と千代の顔が見えた。
「善逸……、母ちゃん……」
「光希。お粥よ。食べなさい」
「お粥……」
「食べなきゃ駄目だ。少しでもいいから食べろ」
「……うん」
善逸の分の食事も運び込まれている。
正直、食欲は全くなくて全力で拒否したいのはやまやまではあるが、二人がかりでこられると、逃げられる気がしない。
ゆっくりと、体を起こす。
「あれ……だいぶ楽になってる……?」
「熱はまだ高いけどな。呼吸が安定してきて良かった」
「そか……」
「さすが善逸くんね。想像以上の効果だわ」
「千代さん、からかわないで。偶然ですよ」
「偶然とは思えないわ。愛の力は偉大ね」
善逸は顔を赤くしてわたわたするが、光希はにこにことしている。
千代がお膳の前に座椅子を出してくれて、そこに移動する。
「本当にだいぶ楽だな……驚いた……」
「じゃあ、いっぱい食べろよ」
「頑張るよ」
千代が土鍋からお粥をお椀によそってくれる。
「母ちゃん、ありがとう」
「ゆっくり食べるのよ」
「一緒に食べないの……?」
「善逸くんがいるでしょ。善逸くんと食べなさい」
「うん……」
光希は少し寂しそうな顔をして、退室する千代を見ていた。
「いただきます」
二人は手を合わせて食べ始める。
「美味しい!千代さん、料理めちゃめちゃうまいよな」
「うん」
匙でお粥をすくうものの、なかなか口へと運べない光希。
「どした」
「食欲って、どんなんだっけ。忘れた」
溜息をつく光希。
「食欲なくても食べろよ。母ちゃんが作ってくれたんだぞ」
「わかってる」
お粥をすくい、匙を口に入れる。
もぐもぐと口を動かし、飲み込む。
「偉いぞ」
「……ごちそうさま」
「駄目だ」
「鬼」
「母ちゃんが悲しむぞ」
「くっ……」
善逸は千代をダシに使って、光希にいつもより沢山のお粥を食べさせた。
自分も勿論完食。
豆腐などの消化の良いものを光希の口へ突っ込んだ。
千代はとても喜んで、二人を褒めてくれた。