第31章 熱
「善逸……、ごめんな…それと、ありがと…いろいろ。あとは……えっと…なんだっけ……」
光希はぼんやりとしながら言葉を紡いでいく。
目がだんだんと閉じていく。
「おい、やめろよ。言い遺すみたいなこと言わないでよ」
「はは……違うよ。言いたいだけ…だよ…。いっぱいあんだよ……なんだっけ……」
善逸は不安になって、繋いでいる手にぎゅっと力を入れる。
自分の頬に流れる涙を拭う。
「ああ、そうだ…、いろんなとこ、行きたい……」
「どこ?」
「喫茶、店……」
「いいな」
「あと……服屋」
「何がほしいの?」
「羽織……破かれた、から……」
「そうだったな」
「あとね……可愛いっ、はぁ、はぁ…着物、欲しいな。俺には、似合わないかも、しれないけど……」
「似合うに決まってんだろ」
「へへ……刀、持てないから、二本持ってね……」
「任せろ」
ふぅ、ふぅ、と息の荒い光希。
「元気にならないとな」
「うん……」
目を閉じる光希。
「寝ないで、光希」
「大丈、夫……ちゃんと帰ってくる……手ぇ繋いでて……」
「わかった。繋いでるから」
「善逸は…、俺の……特効薬、なんだっ…て……」
そのまま光希は眠る。
息は荒いが、先程のようにうなされることもなく落ち着いている。
善逸は光希の熱い手を握って、彼女が目覚めるのを待つ。
以前、蝶屋敷で目覚めを待っていた時とは違う。
今回は帰ってくると宣言している。
大丈夫だ。
光希は約束は守る。少なくとも守ろうとする。
大丈夫だ。
自分に言い聞かせながら寝顔を見つめた。