第31章 熱
「今日はここに泊まれるの?」
「あ、はい。ご迷惑でなければ」
「息子の滞在を迷惑に思う母親はいないわ」
「ありがとう、……母ちゃん」
千代は善逸の夕餉の準備と、光希のお粥を作りに台所へ行った。
善逸は眠る光希の側に手をつき、そっと顔を寄せる。
善逸の黄色い髪が、彼の顔に落ちて影を作る。
冨岡邸では善逸を近寄らせない光希。
さっきは思わず抱きしめたが、光希の意識が通常だったらはねのけられていたかもしれない。
「……お前は頑固だからな」
『俺は剣術だけは真面目に行きたいの!』
光希の言葉を思い出す。
「今すぐ飛び起きて、俺を怒れ」
善逸はそのまま顔を近付けて、口付けた。
「あっちぃ……」
光希の燃える様な唇と吐息に、口を離す善逸。
「……死ぬなよ」
善逸は光希の手を握る。
光希は、はぁはぁと浅く呼吸を繰り返し、苦しそうだ。
光希の口から「う、ううっ……」とうめき声が聞こえ、苦しそうに眉をひそめて涙を流し始める。善逸は、これが見たことのある光景だと思い至る。
子どもの頃、夜中、隣で眠る光希がこうして泣いていたことがあった。
「光希、光希……?大丈夫か?」
善逸は呼びかける。
光希は涙を流し続ける。
「父様、母様……うっ…、はぁ、はぁ……待って……」
泣きながら、小さく呟く。
善逸は背中に冷汗を流す。
……連れて行かれそうなのか?
「おい、光希。目を覚ませ。そっちにいくな。おい!おいっ!」
焦って呼びかけると、善逸が握っている手がピクッと反応した。
「目を開けて、俺を見ろ。しっかりしろ!」
手が、更に強く握られる。
善逸も両手でその手を包み込む。
「頑張れ、光希、頑張れ……」
祈るように繰り返す。
「うっ…はぁ、はぁ、善逸……?」
光希はうっすらと目を開けて善逸を見る。
「光希……!」
「はは…何、泣いてんだ、泣き虫小僧……」
善逸を見て、ふっと笑う。
自分でも気付かないうちに、善逸も泣いていたようだ。
「お前に、言われたかねぇよ……」
善逸は自分の涙より先に、袖で光希の涙を拭いた。