第31章 熱
翌日も熱が下がらずに、衰弱していく光希。
千代は医者を呼んだ。
医者の見立てでは、胃腸炎からくる高熱だろうとのとこだった。
病状は良くなく、栄養が取れていないため回復していないのだという。
医者が置いていった薬を飲むが、高熱と嘔吐がおさまらない。
……こりゃ、本当に死ぬかもな。任務で死ぬとばかり思っていたけど、まさか病死とはな
熱の中で、ぼんやりと思う。
やりたかった事を考える。
無惨を倒したかった。
拾壱ノ型を完成させたかった。
帯刀なんかせず、街を呑気に歩きたかった……あいつと一緒に。
喫茶店にまた行きたかった……あいつ、しべりあが食べたいって言ってたな。
隠れ家にお気に入りの食器や家具を揃えて、あいつと二人で仲良く暮らしたかった。仲良く…いや、きっといっぱい喧嘩するな……
あいつに、謝りたかった。
あいつに、お礼を言いたかった。
あいつと、両親の墓参りに行きたかった。
あいつと、平和になった世界で祝言をあげたかった。
善逸のことばかりが浮かび、力なく笑う。
「何笑ってるの?」
そばに付いている千代が聞く。
「はぁ、はぁ……俺の人生も、なかなか楽しかったなって……ははは」
「こら。また弱気になる。大丈夫だから、しっかりしなさい」
「はい。ずっと付いててくれて、……ありがと母ちゃん」
伸ばされた手を千代はしっかり握る。
とても熱く、光希には見せないようにするが千代にも不安がよぎる。
「善逸くんに、会いたいでしょ」
「うん……。でも、あいつ足折れてる」
「あの子なら、頑張って来てくれると思うよ。手紙は私が書くから鴉くん呼んでくれる?」
「母ちゃん……、俺、そんなに悪いの?一目会わせようとか思ってる?」
「……違うわよ。善逸くんは光希の特効薬だから、来てくれたら元気になると思ってね」
千代は内心を言い当てられて少し焦るが、大人として冷静に務める。
「わかった……。鴉くーん、来てー……」
そう言うと、光希はうとうとし始める。
庭に鴉が来て、木に止まった。
千代は手紙を書いた。
光希の病状が良くない。足を負傷しているのは承知しているが、どうかこちらに来てほしい。今、私が頼れるのはあなただけです…と。
鴉は千代の手紙を咥えて、飛んでいった。