第31章 熱
「そうなの……かな」
「ええ。善逸くんがいたからご両親を思い出せて、いけないことしたら怒ってもらえる。不安や怒りをなんでもぶつけることができる唯一の相手が善逸くんなのよ」
「ぶつけられる善逸はたまったもんじゃないよね。それが嫌で逃げてきちゃった。善逸、悲しそうにしてた」
「善逸くんが、嫌だって言ったの?俺にあたるんじゃねえ!とか」
「ううん。構わないって……」
「ね。大丈夫なのよ。甘えてよかったの」
「でも……」
「それで離れた途端に熱出して……。本当にわかりやすすぎて笑っちゃうわね。善逸くんが光希ちゃんの均衡をいつも保ってくれてるのよ」
『一緒に行こうね』
『俺がそばにいるから。大丈夫だよ』
『俺、もっと頼れる男になるように頑張るからさ。ずっと俺のこと、……好きでいてね』
善逸に言われたいろいろな言葉が浮かんでくる。
わかっていたはずなのに。いっぱいいっぱいになって、見えなくなっちゃったんだね。馬鹿だね…
まただるさと熱が上がってくる。
「ね、母ちゃん……」
「なに?」
「俺がこのまま死んだらさ、善逸にありがとって、伝えてね」
「それは自分でちゃんと伝えなさい。身体がしんどいからって、弱気になっちゃ駄目よ」
「母ちゃん……」
「また私から、愛する娘を奪わないで」
「……うん」
両親を思い出した光希だが、光希は変わらず千代を母と慕い、千代も光希を娘だと言ってくれる。
「さ、もう寝なさい」
「ね……、母ちゃん…、光希って呼んで」
「おやすみ、光希」
「ふふっ、おやすみなさい、母ちゃん」
光希は嬉しそうに眠りにつく。
千代は光希の髪を優しく撫でてくれた。