第31章 熱
翌朝、光希は起きたときから、自分の体がまだ明らかに発熱しているのがわかった。
仕方なく、鴉に頼んで手紙を善逸に届けるようお願いした。まだ義勇は起きてきていないが、この状態では蝶屋敷に帰してもらえないのは目に見えている。
千代も帰しはしないだろう。
しかし、昨日帰宅しなかったことで、善逸は相当心配しているはずである。申し訳なく思う。
手紙には、数日中に戻るからと書いた。
そして、骨折している足でこちらに来訪することなきよう、と書き添える。
鴉を飛ばすと、もう一度布団に伏せる。
高熱を出したのは子どもの時以来だ。庭で倒れて善逸に背負われたあの時が最後だろう。
「ううっ……風邪ってこんなにだるかったっけ……」
布団の中で弱音を吐く。
またうとうとと眠る。
光希が眠る中、起床した義勇が部屋に様子を見に来る。
寝ている少女に近付く。
頬が赤く、呼吸が浅い。
自分たち上層部が光希を苦しめている。
この熱は、風邪というよりおそらく心労だ。
器用なようで、不器用な子。
悪戯をするくせに、真面目な子。
嫌だ嫌だと言いながら、責任感が強すぎる子。
ずっと吐いているので、おそらく昨日は何も食べていない。もともと華奢な身体がますます細くなったような気がする。
「大丈夫だ。俺が守ってやる」
義勇が呟く。
「兄として、な」
自分に言い聞かせるように。
そうでもしないと、この唇を奪ってしまいそうだったから。そしてそれは、この子を悲しませるだけだとわかっているから……
「ありがとうございます…義勇さん……」
光希が眠りながらそう呟いた。
義勇は寝言で名を呼ばれ、口元を緩ませた。