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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第31章 熱


「本当にごめんなさい、義勇さん」

「でも、俺本当に駄目で。考えるだけで駄目で。ぴりぴりしちゃって周りの人にも当たるし、泣くし、吐くし、凄い駄目駄目なんですよ……」


いつになくションボリとしている光希。
熱のせいだけではないようだ。

「限界、みたいだな」
「はい」


鍛錬でも限界知らずでつっぱしる負けず嫌いの光希が、限界を認めた。
義勇の前で泣いたことがない彼女の目が潤んでいる。


「わかった。一応その旨は伝えておく。だが、どうなるかの保証はできない」
「ありがとうございます。申し訳ございません」

光希は手を付いて深々と頭を下げる。
義勇はそっと頭を撫でる。
口に出さないが「大丈夫だ」「頑張ったな」と言われている気がした。

思わず涙が溢れる。
見られたくなくて顔をあげられない。


「降格は、出来るのかわからない」
「……はい。じゃあ、横棒二本書き足して『里』にしてやるって言ってたとお伝えください」

光希が涙声でそんなことを言うから、思わず義勇は笑いそうになる。光希が顔をあげられないでいるので助かったと思う。


「『黒』や『申』もいけそうだな」
「いいですね。ふふ」

光希が涙を拭いて顔を上げた時、義勇はいつもの無表情になっていた。


「蝶屋敷でお前に八つ当たりされたのは誰だ?」
「お察しの通りです」
「仲直りしたのか」
「一応……いや、出来てないかな」


『わかった……』と肩を落として去っていく善逸を思い出す。


「酷く傷付けました。俺はもうあいつを傷付けることはしたくない。そう思いました」
「そうか」

「あと、実弥さん」
「……さねみ?…ああ、不死川か。また揉めたのか」
「すみません。でも、こっちはちゃんと和解しました!」


鬼殺隊広しといえど、不死川を下の名で呼べるのはお館様くらいだ。

その名で呼ぶということは、和解したのは本当だろう。


「……確かに不死川はお前が呼ぶには長いな」


思えば光希からの初めてのお願いは、下の名前で呼ぶことだった。

『冨岡さんより、義勇さんの方が短いじゃないですか。呼びやすいので』と、よくわからん理由でお願いしてきた光希。


あの日が、随分前のことのような気がした。

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