第30章 階級を示せ
翌朝、光希は風呂に入った。
常に入浴が可能な蝶屋敷での、贅沢朝風呂である。
頭を縫っている光希は長湯は駄目だが、気持ちを切り替える為にも大好きな風呂に浸かった。
傷口を気をつけながら髪を洗う。
汚れと一緒に、モヤモヤも洗い流していく。
風呂から上がって髪を乾かす。
部屋に戻ろうとすると、善逸が扉の前にいた。
「……はよ」
「おはよう、善逸」
光希は戸を開けて部屋に入る。手ぬぐいで傷にさわらないように、髪を拭く。
善逸は入っていいのか悩んでるのか、入り口で止まる。
「どしたの?」
「いや……」
「早く扉閉めて」
善逸は部屋に入って戸を閉めた。
「光希、昨日はごめん」
善逸が頭を下げる。
「俺、光希がどれだけ辛い思いをしてるのかわかってなかった。ごめん」
光希は手ぬぐいを首にかけて、善逸を振り向く。
「私の方こそごめんね。善逸が、悪気があって言ったんじゃないって、わかってるよ。私の為に言ってくれたのも痛いくらいにわかる。だから……、完全に八つ当たりだよ。本当に駄目だわ。はは」
「光希……怒ってないの?」
「怒ってないよ。ただ……」
「ただ?」
「少し、疲れた」
「疲れた……?俺とのことに……?」
「そうだ…ね。それも少しある、かな。私のせいなんだけどね。善逸は悪くないよ」
善逸は背筋が冷える。
「怪我と、記憶と、喧嘩と……仕事でしょ。なんだかちょっと、いっぱいいっぱいでさ、私」
ふぅ……とベッドに座る。
「今日一日、離れてみよっか」
「俺が、重荷?」
「違う」
「じゃあ、どして……」
「私は弱いから。あなたをまた傷付ける」
「俺は構わない」
「私は嫌だ」
「嫌だ……離れない」
「……善逸、寝てないでしょ。こんなに早くから動いてるんだもん」
「う……」
「ほら。私と一緒にいることで、あなたがこうして疲弊していくの。今の私は負の要素でしかない」
「……どうしたんだ。大丈夫か光希。卑屈は俺の専売特許なのに」
「だから、疲れてるの」
「回復するのに、俺が邪魔なの?だから俺を遠ざけるの?」
「……そう」
光希は少し悩んで、静かにそう言った。
善逸は俯く。