第30章 階級を示せ
二人はベッドの上で少し距離をとって向かい合う。
「俺は本気でそう思ってる!子どものころからお前の作戦は見事だ。失敗したこともあるけど、その失敗すら利用することもあるお前の小賢しい頭を、心から信頼してる!」
「状況が違う!失敗した段階で大勢が死ぬんだぞ!俺が腹切って償えるもんじゃない!」
「なら俺を切り捨てろ。俺が死んでも、お前は気にやまなくていい。俺は喜んで死にに行くから」
善逸がそう言うと、光希は善逸の胸ぐらを掴んでベッドに激しく押し倒した。馬乗り状態になる。
「そんなことっ……!
そんなこと、出来るわけないだろ馬鹿野郎っ……!!」
善逸の上にぼたぼたと大粒の涙が降ってくる。
「お前をっ……俺が、切り捨てられるわけ、ないだろがっ!……くっそ…お前、馬鹿も程々にしとけよっ……
俺は、お前を絶対に、切り捨てられない。だから!その他の、隊士を、危険に追いやるかも、しれないんだよっ……!」
善逸の胸ぐらを掴む両手が震えている。
善逸の上で泣いていた光希は、また口を押さえる。ベッドから飛び降りて走っていく。
善逸はしばらくそのままベッドに寝ころがっていたが、ゆっくりと身体を起こす。
顔に落ちてきた光希の涙を、袖でゴシッと拭く。
そのまま少し部屋でぼんやりしていたが、光希が帰ってくる様子がない。
外を見ると日が暮れていた。
探しにいくか、と立ち上がると、声だけが聞こえた。
…『善逸』
上から聞こえる気がする。屋根の上か。
…『ごめん、自分の部屋に戻って。一人になりたい』
声だけだからか、有無を言わさない、冷たいものに聞こえる。
善逸から光希に言葉を届ける手段はない。
善逸は一言謝りたかったが、なすすべなくとぼとぼと光希の部屋を後にする。
自室に帰ると炭治郎が「どうしたっ?何があった!」と慌てて駆け寄ってきた。そのくらい彼は憔悴していた。
「たんじろおー……、ううっ……」
善逸はしくしくと泣くが、詳しいことを話せるはずも無く、喧嘩した、としか言えなかった。