第30章 階級を示せ
「んー…、まあ、それでね、次に隊が目をつけたのが、私の類まれなる頭脳ですわ」
「なる程な」
「とほほですよ……やんなっちゃう」
「具体的には何するの」
「肩書は『総司令官』。馬鹿でしょ。私、十五のかよわい小娘だよ?この重い四つの漢字背負う覚悟ないわぁ……」
光希は頭を抱える。
「嫌なの?」
「死ぬほど嫌」
「なんで?」
「……人を殺す覚悟が出来ない」
人を殺す覚悟。
善逸は口の中で繰り返す。
「上に立てば、どうしても出てくるんだよ。『見捨てろ』という指示が。俺は、そんな指示は出せない。それ故、隊を全滅させることに繋がりかねない」
「…………」
「任務の中で指示は出すよ。全員が死なない為の策を死ぬ気で考えるよ。
でも、でもさ……隊全体でそれは無理だ。無理なんだよ……。どうしても優先順位を決めなきゃいけなかったり、切り捨てることが必要になる。
隊士だけじゃない。鬼の襲撃情報が同時に来たらどうする?どっちに柱を派遣する?上弦が来たら誰にどう指示を出す?陽動や囮を使うこともあるだろう。全部の人を助けるなんてできないんだ。
人の命は……将棋の駒じゃねえ…捨て駒なんて存在しないんだよ」
いつの間にか光希の目からは涙が溢れていた。
「でも俺は、そんな優しい光希だから上に立って欲しいと思う」
「…………」
「簡単に切り捨てられたら嫌だけどさ、俺はお前の下した判断なら従うから。苦渋の決断だったんだろうなってわかるし」
「簡単に言うなっ!」
「簡単に言ってねえっ!」
寄り添っていた二人はばっと離れる。