第30章 階級を示せ
突然光希が「うっ」と呻いて口を押さえる。
「……光希?」
光希はそのまま部屋から走り出ていった。
考えすぎた心労が胃に来たようだ。怪我してここへ来て以来、ろくに食べれていない。
そんな光希を見て、善逸は唖然とする。
……え。吐くの?も、もしかして、俺、妊娠させた?それであいつ悩んでたの?
心当たりがあるだけに、盛大に勘違いをした少年は震えながら部屋で光希を待つ。
吐いて、幾分すっきりした光希が部屋に帰ってくると、少年は土下座していた。
「え?何してんの?」
「本当にごめん。俺のせいだ」
「は?」
流石の光希もわからない。
覚悟せよと言ったが、きっと彼はもの凄く違うことに覚悟をしている。そんな予感がぷんぷんする。
「俺が粛清されるから。お前のことは守るから」
ストレスでどうかなったのかと思う。
「一人で悩まないで。鬼殺隊を辞めるのは辛いだろうけど、俺が全部責任負うから。お腹の子は一緒に育てよう」
そこでようやく土下座の謎が解け、光希は爆笑し始める。
「あははっ!何それ!ふ、ふふっ、」
涙を浮かべて笑う。
「な、なんだよ。人が覚悟決めてさ……」
「ごめん、ご、め……ぷはははは!駄目だ、止まんないっ……!」
笑い転げる光希に、とりあえず善逸は立ちあがる。
「笑うなよっ!」
「ふぅ、ふぅ……いてて、お腹の傷、響く。あたた」
「おい、ほら。横になれよ」
「大丈夫。ありがと」
善逸は慌てて光希をベッドに連れていく。彼女はベッドに上がらずに腰掛けた。笑顔で隣をポンポンと叩いて善逸を呼ぶ。
善逸は笑われて拗ねていたが、隣に座る。
「赤ちゃんじゃ、ないよ。こんなにすぐつわりが出るかい」
「そうなの?」
「そうだよー。でも……そうだね。もしこの悩みが赤ちゃんとかだったらいいのにね」
「………」
「夢半ばで鬼殺隊辞めるのは断腸の思いかもしれないけど、赤ちゃんだったら、辞める一択だなぁ……」
そう言うと、光希は善逸の肩にトン…と頭を預ける。
妊娠ではないとわかって、善逸はほっとする。
「じゃあ、吐くほど辛いことなのか……」
「そうねー…私、繊細だから」
善逸の腕が光希の肩をぐっと抱く。