第30章 階級を示せ
「……おい、泣くなよ」
光希が布団にくるまると、少しした後に善逸の泣き声が聞こえ始めた。
「だっ……て、うっ、俺に、隠し事…すんだもん。光希、……どっか遠くに、行っちゃ、う、の?……うぇっ、やだ……なんなのさ…うわぁぁぁん……」
仕方なく布団から顔を出す光希。
はぁ、と頭を抱える。
光希が善逸だったら、とにかく考える。考えて考えて正解に辿りつこうとする。知りたいことは自分で見つけ出す。
しかし、善逸は泣く。泣けば答えがふってくると思ってるのだろうか……
確かに今までは、善逸が泣くと光希は仕方なく正解を教えていた。だから、形は違うが、これは善逸なりの答えの導き方なのだ。光希から言わせれば、彼の得意技である。
だから、今回は……
「遠くにはいかない。そのために、全力で拒否してるし、対応策も考えてある。大丈夫だよ」
それだけ伝えて、詳細は言わない。
泣き落としを、成立させなかった。
「本当……?」
「もちろん。安心して」
「……教えてくれないの?」
「教えません。俺は善逸を甘やかしすぎたとわかった」
「……え?どういうこと?」
泣き落とししていたのは、作戦ではなかったようだ。無意識のものらしい。
「いや……ま、とりあえず、涙と鼻水拭けよ」
光希は紙を渡す。
納得出来ずに、光希を見つめる善逸に、溜息をつく。
さっき喧嘩を止めてくれたときは成長を感じたけど、こいつも子どもの頃から変わってねえ……
光希は善逸が少し前に思ったことと同じことを考えていた。
しばらく部屋の中は沈黙し、善逸の鼻をすする音だけが聞こえる。
光希はベッドを降りて、窓辺に歩いていく。
窓枠に手を置いて風を感じながら外を見ている。外を見ながら考えると、心が落ちつく。
しかし、なかなか考えがまとまらない。
話すなら、光希は光希で覚悟が必要なのだ。
沈んでいく夕日を見ている。