第4章 那田蜘蛛山
「よぉぉぉっしゃぁ!!」
伊之助が喜ぶ。
「へへ、切れた。ざまあみろ……」
光希は笑うが、川の中にバシャリと片膝を付く。刀で身体を支えている。
「お、おい!」
「はぁっ、はぁっ、大丈夫だ。ゲホッ。川が、ちょいとばかし苦手なだけだ」
光希は相当疲れていた。
共闘技はかなり体力と精神を消耗する。そして、山に入ってから走りっぱなしの光希。手足に力が入らず、肩で息をしている。
腕を切られた鬼は走って行く。
伊之助は意気揚々と追いかけるが、光希は嫌な予感がした。
「くそ、まだだ。まだ、やらなきゃ」
光希はよろりと立ち上がる。伊之助の出血を見て、彼の後を追う。
「そこかァァァ!」
木の上で震える鬼に叫ぶ伊之助。
鬼は脱皮して、一回り大きくなり、伊之助の前に恐怖の象徴として降り立つ。
圧に押されて動けなくなった伊之助。
俺は死ぬ。
そう思った瞬間、目の前に現れたのは薄紫色の羽織り。小さな背中だった。
両手を広げて伊之助を庇うように立つ。
「俺は如月光希だ!!仲間は絶対に殺させねぇ!」
鬼が動いた瞬間光希は後にいる伊之助を払いのけ、横へ飛ばす。自分も攻撃を避けるために身を捻るが、肩に拳が当たって吹き飛んだ。
飛ばされた先の木に当たり「ガハッ」と声を上げる。
「おいっ大丈夫か!」
伊之助が叫ぶ。
「伊之助!諦めるな!」
光希は肩を押さえてよろりと立ち上がる。息が上がり、口元からは血が垂れている。
「こんな奴に負けてたまるか!はぁ、はぁ、二人で倒して、炭治郎助けに行くぞ!」
その光希の姿を見て、伊之助はお婆さんや炭治郎が言っていたことを思い出し、はっとする。
伊之助の目に闘志が戻った。
諦めるな!
誇り高く!
「俺は鬼殺隊の嘴平伊之助だ!かかってきやがれゴミクソが!!」と、高らかに叫ぶ伊之助。
そして、一秒もしないうちにぶん殴られていた。
そこからはもうボッコボコだった。
鬼に殴られ蹴られ吹き飛ばされる。でも二人とも諦めなかった。
何度殴られても立ち上がり、戦い続ける。
ぎりぎりで致命傷を避け、命を繋いだ。
「俺は今まで蜘蛛とか嫌いじゃなかったけどな、ゲホッ…認識改めるぜ。
俺は…蜘蛛、大っ嫌いだぁぁぁ!!」