第28章 思い出
善逸は窓を開けて、部屋に風を入れる。
昼の風が部屋に吹き込んでくる。
「ん」
突然光希が両手を広げた。
「ん?ぎゅってして欲しいのか?」
「ん」
善逸はベッドに近付き、光希の身体を引き寄せて抱きしめる。
光希も善逸の背に手を回して、ぎゅっと力を込める。
「どした?」
「んー……」
善逸は光希の後ろ髪を撫でる。
「甘えん坊さん」
「ん」
光希が急に言葉を発しなくなったので、音を聞いてみる。しかし、何やらごちゃついた音がして、心理まではよくわからなかった。
「眠い?」
「んーん」
「じゃあ、お腹空いた?」
「んーん」
「じゃあ、…傷が痛い?」
「んーん」
全部に首を振る光希。
「わかんない。降参。教えて、光希」
「んー……」
「ん?」
「ん……」
「言わなきゃわかんないよ」
さっき光希が言ってたことを善逸が言う。
「……んー…、わかんない、私も」
「え?」
「わかんない、けど、…くっつきたかったの。すっごく」
光希がまた、善逸を抱きしめる腕に力を込めた。
少し、光希から不安の音がした。
「そっか。わかんないのか」
「ん」
「俺にはわかるよ」
「?」
「それはね、光希が俺のことを凄く凄ーく好きだからだよ。だからくっつきたくなったんだ」
そう言うと、光希は善逸の腕の中で少し笑った。
不安の音が消えた。
「そう、なのかな?」
「そうだよ」
「……じゃあ、そういうことにしとこうかな」
「そうしなさい」
善逸は優しく光希の背中をさする。
「いつでもこうしてやるから。安心して」
「ん」
「俺も、光希のことが凄く凄ーく好きだから。こうしてくっつくのは一挙両得なの」
「……ん。ありがと」
善逸は、光希がまだまだ不安定なのだとわかった。過去を受け入れるには時間が必要だろう。
言わなきゃわかんないと人に言いつつ、自分の想いをなかなか言えない光希を、しっかり支えていこうと思った。