第28章 思い出
光希の涙が落ち着くと、善逸はゆっくりと身体を離す。自分の涙をぐいっと拭い、光希の涙も袖で拭いてやる。
そのまま赤くなった頬を触る。
「……ほっぺた、痛いよな。赤くなっちまった」
善逸が眉を寄せる。
「叩いて、悪かった……」
光希はゆっくりと首を横に振る。
「怒ってくれて、ありがとう善逸」
目覚めてから初めて、少しだけ光希が笑った。
ベッドに座る光希の身体がぐらりと揺れたので、善逸が慌てて支える。そのまま光希を布団に寝かせる。
「大丈夫か?」
「頭がくらくらする」
「貧血だな」
「泣いたし、疲れた」
「うん、そのまま休め」
「善逸も、休んで。足、凄く痛そう。俺のせいで、だよな」
「足は痛いけど、別にお前のせいじゃない」
「俺の作戦が……」
「俺がやると決めてやっただけだ。お前が背負うことじゃない」
「うん……。善逸も部屋で休んできて」
「光希…。居なく、ならない?」
「うん。居なくならないよ」
「絶対?」
「たぶん……」
「おい」
「絶対、って言いたいけど。ほら、人生何があるかわかんないし。へたに約束して破りたくないし」
「………ここで寝る」
「駄目です」
「やだ。ここで、寝る」
善逸は椅子に座ったまま、ばふっとベッドに上半身を預ける。
「おい、善逸」
「……眠い…少しだけ、寝かせて……」
「部屋で、ちゃんと寝なよ……」
「ん……後で、そうする……」
善逸から寝息が聞こえ始める。
彼がずっと気を張っていたことがわかる。
光希は善逸の髪を撫でる。
「ありがとう」
光希の声に返事はなく、少年が柔らかな顔をして寝ていた。