第28章 思い出
善逸がしのぶに頭を下げる。
「いろいろすみませんでした」
「いつになく、厳しく出ましたね」
「俺の感情も入ってしまいましたが……」
「まあ、わからなくもないですよ。怒るのも愛、ですからね」
「……はい」
「光希さんは、ちゃんと解ってますよ」
「……だといいのですが」
善逸は少しため息をつく。
「心の傷は、私では治せません。特効薬もありません。時間はかかるでしょうけど、君が治してあげるんですよ」
「はい」
「おそらく……、君が側にいるから彼女は辛い記憶を思い出したんだと思います」
「……!前に少し思い出した時に、光希が似たような事を言ってた」
「信頼をよせる人が側にいてくれるから、安心して思い出せる。そういうものですよ」
「……俺、昨日、速攻で窓から逃げられましたけど。信頼が足りなかったかな?」
「……次はちゃんと捕まえてくださいね」
「はい……」
しのぶはそう言うと部屋から出ていった。
善逸は椅子に座った。
安静に出来てないため、負傷した足が痛い。
耳を澄ますと光希が皆に謝っている声が聞こえる。
光希を叩いた右手が今になってびりびりと痛みだした。なにも叩くことはなかった。彼女の辛すぎる胸中をもっと受け止めてやるべきだったのではないか。
そんな考えがよぎる。
昔は取っ組み合いの大喧嘩も日常で、殴り合いもしていたが、女とわかってから叩いたのは初めてだった。
善逸は眉を寄せる。
ため息を付いて、光希を待った。