第28章 思い出
翌朝、しのぶとなほが診察に来た。
善逸は部屋を出て、廊下で待つ。
すると部屋から「光希さんっ!」となほの声がして、廊下にも「善逸さん、目を覚ましましたよ!」と嬉しそうに呼びかける。
善逸は足を引きずって部屋に入る。
しのぶも安心したように光希を見る。
しかし、無表情の善逸。
「あ……善逸。俺、その……」
光希がそこまで口にしたとき、
パンッ…!!
という乾いた音が部屋に響いた。
善逸が、光希をひっぱたいた音だった。
善逸が。あの善逸が。
女の子を。鍛錬以外で叩いた。
これは号外が配られるほどの大事件である。
なほもしのぶも驚いて固まる。
「お前っ!!自分が何したかわかってるのか!!
どれだけの人に迷惑かけたっ!!
お前の勝手な行動で、皆がどれだけ心配したか、ちゃんとわかってるのか!如月光希!!」
「ごめん、なさい……」
しゅんとなる光希。
叩かれた頬が赤くなる。
「……善逸くん、光希さんは辛い記憶を思い出して錯乱していたのですよ」
「それでも!それでも駄目なことは駄目です!悪い事をしたら、謝らなきゃ駄目だ」
「しかし……」
「胡蝶さん、善逸の言う通りです。心配かけて本当にすみませんでした。なほも、ごめんなさい」
光希はしのぶとなほに、深く頭を下げる。
「……動けそうか」
「うん。大丈夫だ。他の皆にも謝ってくる」
光希はベッドから降りようとする。
「えっ!今からですかっ?また後でも……。別にみんな怒ってませんよ?」
「なほちゃん、行かせてやってくれ」
止めに入るなほを、善逸が止める。
しのぶを見ると少しピキピキしている。怖い。
「すみません、胡蝶さん。すぐ戻ります」
「今じゃないと、駄目なんですね?」
「はい。お願いします」
「……はぁ、ちゃんとゆっくり歩いてくださいね。頭もお腹も重症であることをお忘れなく」
「はい。ありがとうございます」
ふらつきながら部屋を出ていこうとする光希。
「光希」
まだ少し怒気を含んだ声で善逸が呼びかける。
「皆に謝ったら戻ってこい。待ってるから」
「うん」
なほが心配そうに光希の後を付いていく。