第28章 思い出
夜になった。
光希はまだ目を覚まさない。
善逸はそのまま光希の部屋でベッド脇の椅子に座って寝た。
善逸も重症だったが、また彼女が居なくなっても困るのでアオイが特別に許可をした。
善逸は光希の手を握ったまま、うとうとしている。熟睡するのが怖かった。また居なくなってしまうのでは、と思う。
厠に行っても走って戻ってくる。光希と離れるのが怖くて怖くて仕方なかった。
失う恐怖。
さっきの誰も居ないベッドと、振り返ったときに母親が居なかった光景とが重なる。
親に捨てられた日。大事な繋がりがこの手からするりと消えてしまった時を思い出し、震えと吐き気がこみ上げる。
善逸は心を落ち着けて、また目を瞑る。
回復の呼吸を繰り返しながら、光希の目覚めを待った。