第28章 思い出
善逸は血の気が引いた。
無理のきかない足で部屋の中を歩き回る。
風を感じて窓を見る。
窓が空いていた。足を引きずり窓へ向う。顔を出して覗くが、視界に居ない。
音で探そうとするが、自分の鼓動が大きすぎてわからない。
……落ち着け、落ち着け!
ガタガタと身体が震える。
大怪我を負った光希。その上また心に大きな怪我をした。側にいるべきだった。あの震える手を……、離してはいけなかった。
……なんで一人にしたんだ、俺は!
善逸は奥歯をかみしめる。
光希を診に来たアオイたちに光希が消えた事を話すと、ギャー!と叫んで探しに行ってくれた。
善逸も痛む足を引きずって音を聞きながら屋敷内を探す。
探索能力に優れた炭治郎と伊之助が居れば探しやすかっただろうが、彼らは任務でこの日不在だった。
程なくして光希は見付かった。
なんと、屋敷の外。
山に向う途中の道で倒れていたのを、治療にきた不死川が偶然見つけて運んできたのだった。
どおりで屋敷中を探してもいなかったはずだ。
蝶屋敷の面々もほっと胸を撫で下ろす。
善逸は経緯を不死川に話した。
二人は眠る光希を挟んで椅子に座り、不死川は話を聞く。
「こいつ、そんなに弱い奴には見えねぇけどなァ……そうとう混乱してたのかァ」
「本当は弱いんです。ご迷惑をかけてすみませんでした。起きたらちゃんと謝らせますから」
「テメェ、こいつの保護者かよォ」
「俺の管理不行き届きですので」
「まあどうでもいい。ちゃんと見張ってろォ」
「はい。見つけてくれてありがとうございました」
善逸は不死川に頭を下げる。
不死川は部屋を出ていった。
「どこに行こうとしてたんだよ……俺から離れて」
善逸は光希の手を握る。
「ちゃんと、ここにいろよ。頼むから」
眠る光希の目から、またすーっと涙が溢れた。