第28章 思い出
光希は、自分がふわふわと浮いている気がした。
――あれ……?俺、死んだのか?
周りの人がざわざわと自分を通り過ぎていく。
どこか懐かしい街を、浮きながらぼんやりと俯瞰していると、見知った姿が見える。
―――父様、母様……!
それを見て、自分が夢を見ているのだとわかる。
父と母は幼い子を連れている。桃色の服を着ている子どもの顔はわからないが笑っているようだ。
『ほたる、いるかなぁ』
子どもの声がする。
――ああ、そうだ。俺が言い出したんだ。蛍を見たい、と
『いるといいな』
――行っちゃ駄目だ……!今すぐ引き返せ!
夢の中で叫ぶが、当然ながら彼らには聞こえない。
『ひかってる!あそこかな?』
子どもが茂みに近付くが、光っていたのは鬼の目だった。
『きゃあぁぁぁぁっ!』
『光希っ!!ぐぁっ……!』
『あなたっ!いやぁぁぁっ!』
鬼に連れて行かれそうになる子どもを必死に庇う父親は、背中に鬼の爪を浴びた。
母親も駆け寄るが、父親はほぼ即死状態だった。
―――父様っ!母様!!!やめろ!やめてくれっ!
光希は近付こうと必死にもがくが、動けない。
無意識に日輪刀を取ろうとするが、持っていないことに気が付く。
父親が倒れた後、母親も盾となって子どもを守ろうとするが、たやすくなぎ倒される。
子どもは最初こそ恐怖で叫んだものの、その後は呆然として人形のように佇んでいる。
鬼の手が、子どもにかかろうとしたとき、背中に「滅」の字を入れた黒い影が現れる。
鬼殺隊士は鬼を切り捨て、子どもを抱きしめる。
『ごめんな……、早く来てやれなくて。ごめんな……』
声をかけられても子どもは何も答えず、動かなくなった両親見たまま立ち尽くしていた。
―――そうだ。思い出した。俺が……俺が父様と母様を殺したんだ。俺のせいで……、俺のせいだったんだ……!
光希は空中で俯瞰しながら、声にならない声を出してぼろぼろと涙を零した。
頭がずきずきと痛む。
吐き気で目が回る。
なんだかとてもうるさい。
「……ーーっ!光希っ!!おいっ!」
光希はそっと目を、開ける。
起きたときも身体は痙攣し、夢の中と同じように泣いていた。