第4章 那田蜘蛛山
善逸は小屋の上に背中から落ちた。
受け身も何もとれず、げほっとむせる。
「善逸ーーー!!」
……下から光希の声がする。良かった、無事みたいだ
「諦めるな!呼吸で毒の回りを遅らせるんだ!」
……うるせぇな。俺の事はいいから早く安全な所に逃げろよ。馬鹿だな
「絶対諦めるなよ!諦めたら許さねぇからな!」
……なんか、下で走ってんな。登ってこようとしてんのか。いや登れねぇだろここまではよ。人面蜘蛛とかいんだから早くどっかいけって
「誰か、探してっ、呼んでくるから!ぜっ、たい、助けるからっ!待ってろよ!」
……あれ?声が何か変だ。泣いてる?まさかな
「一人にしないで……」
そう言いながら光希は山へ走っていった。
最後のつぶやきは、まるで風に運ばれてきたかのように、耳に届いた。
……死ねない
善逸は呼吸を使って悪あがきをすることにした。
自分のことが嫌いで、どうなってもいいやと思っていたけど、じいちゃん、炭治郎や伊之助、そして…光希と、俺はもっと一緒にいたい。生にしがみつこう。やれるだけ。
そう考えながら。
シイイイ……という善逸の呼吸が、山に響いた。
意識が朦朧とする中、善逸に「もしもし、大丈夫ですか?」と綺麗な女の人が声をかけた。
下に降ろされると、息を切らした光希が駆け寄る。
「善逸!善逸!生きてるか?」
善逸は喋れなかったので、目線で「大丈夫だ」と伝える。
光希は「良かった……」と座り込む。泣きそうな顔をしているが、ぐっと堪えている。
「この子が雀ちゃんと一緒に、私を呼びに来てくれたんですよ」
女性が善逸に話しかける。
チュン太郎が善逸の胸の上にとまった。
しのぶと善逸の様子を見て、光希はザッと立ち上がる。
「胡蝶さん、善逸をお願いします」
「どこへ?」
「仲間の所へ行ってまいります」
おい、馬鹿か!と善逸は叫びたかったが、声が出ない。
「お気をつけて」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる光希。
「善逸、死ぬなよ!」
そう言い残して、光希はまた走って行った。