第4章 那田蜘蛛山
善逸は木の上で泣いていた。
蜘蛛になるという事実を受け入れられず、ひたすらに駄々をこねていた。
嫌だ嫌だと盛大に喚き続け「光希と逸れたからだ!うわぁぁぁん!」と叫んだ。
そして髪の毛がゴッソリ抜けた時、善逸は気絶した。
その泣き声がうっすらと聞こえた光希は、声の方へ走る。
善逸の声を頼りにしながら臭いがきつくなる方へ走っていくと、巨大蜘蛛が現れた。
「なん…だ、このデカさは。くせぇ」
蜘蛛が光希を見て「お、こいつの仲間か?」と、にたっと笑った。
「光希っ!来るな!!」
小さな人面蜘蛛に囲まれながら善逸が叫ぶ。
「善逸っ!」
光希は駆け寄り、人面蜘蛛を蹴散らしていく。
「来るなっつったろ!」
「んな訳いくかっ!」
善逸は繰り返し壱ノ型を出し続ける。
――――善逸、『眠り』に入ってるな。
だが、動きが悪い。もっと速いはずだ。毒を浴びたか。急がないと。
光希は蜘蛛が吐き散らかす毒液を躱しながら善逸に声をかける。
「俺の技はあいつまで届かねぇ。小屋まで跳べるか?善逸!」
「いける!」
「よし、援護する!」
「いや、違う。共闘だ!!」
「え、でも雷の速さには…」
「あいつ目掛けて先に技を出せ!俺がそれを纏って、そのままあいつに、ゴフッ、ぶつける!!」
そんなことができるのか?
鍛錬の時と逆。光希先行の共闘技は初めてだ。
だが、迷う時間はない。
「わかった!行くぞ善逸!」
「おう!」
「水の呼吸……」
「はは、何かやろうとしてるみたいだが、そんな腰抜けとじゃ何も出来ないぜ」
蜘蛛の言葉にカチンとくる。
「漆ノ型、雫波紋突き!!!」
蜘蛛に向かって渾身の突き技を出す。
「善逸は、腰抜けじゃねぇ!!!」
善逸は光希の言葉に、僅かに口角を上げた。
そして、空気を揺らすほどに力を溜めていた足で地を力一杯蹴った。
「雷の呼吸、壱ノ型、霹靂一閃・六連!!」
善逸は小屋周りの木を伝い、蜘蛛の所に登っていく。最後の真上へ向う一発の時、光希の雫波紋突きに飛び込んだ善逸の技は、水流と合わさることで巨大な稲光となって炸裂した。
全てが瞬く間に起きた事で、目で追うのに必死だったが、その威力は凄まじい事がわかった。
鬼の首はバッサリと切れていた。