第26章 合同任務
男が光希を見下ろしながら言う。
「はは、お前、心配症なんだな。この腰抜けが」
「……はい、俺、腰抜けなんで。心配はし過ぎて困ることはないと思っています。今回の任務、何か嫌な予感がするんです」
「ははは!こりゃ傑作だ。噂の寝子隊士がこうも弱々しいとはな。きっと水柱も腰抜けなんだな!」
男がそう言った時、光希を取り巻く空気が一気に冷え込んだ。
……やばいっ、キレる!
光希の心からブチ切れの音がした。
しかし、
「冨岡さんは、腰抜けではありません」
とだけ言ってやり返さなかった。
……光希が、『冨岡さん』って言った
善逸だけが、光希の怒りを聞いていた。
光希は昔から、自分のことはどれだけ言われても耐えるが、大切な人の悪口を言われると秒でキレる。
義勇の為に怒り、また義勇の為に必死で怒りを抑えたのだとわかる。
怒りで震える手を握ってやることも、小さなその身体を抱きしめることもできない。
これは彼女の戦いだから。
善逸は自分の無力さに打ちのめされていたが、『肥溜めに落っこちろバーカ』と小さい声がしたので、少し笑った。
指定された時間になったので、五人は村に入る。
「光希、よく耐えたな」
「おう。偉いだろ。お前も、よく耐えたな」
「俺は喧嘩しねえよ」
「これ以上、義勇さんに迷惑かけらんないからな……」
確かにあそこでブチ切れたら光希と義勇の間に流れる噂を裏付けるようなものである。
「そんなことより、ここからだ。頼むぞ善逸。やっぱり、何かある」
光希は先程のことを『そんなこと』と切り捨て、もう周りを見ている。とっくに戦闘状態だ。
彼女の成長に目をみはりながら、同時に、いつもこんな目にあってんのかと悲しくなる。
「ああ、任せろ」
負けてられない。さっきの男にも、この子にも。
善逸は力強く応えた。