第24章 雷の呼吸
「どういうつもりですか、冨岡さん」
善逸が目を釣り上げて質問する。
「別に。どうもこうもない」
「添い寝は駄目ですよ」
「お前、光希を抱いたな」
「……っ! はい。抱きました。俺の女ですから」
義勇は酒をあおる。
先程初めて聞いた、光希の女のような悲鳴を思い出す。
「女に、なったな」
「なら尚更添い寝は絶対に駄目です!」
「あいつは俺の妹みたいなもんだ。添い寝くらいさせろ」
「駄目ですっ!」
「…………」
「光希は誰にも渡さない!!」
善逸は叫んで立ち上がる。
「……寸法」
「……は?」
「いや」
部屋着のサイズぴったりだな、と言いたかった義勇だが、やはり善逸には伝わらない。
これを理解してくれる人間は限られているのだと改めて実感する。
その数少ない娘を、目の前の男が手に入れた。
「お前は、幸せ者だ」
かつて自分のそばにいて、今は違う屋敷にいる小柄な娘を思う。
「??」
怒っていたのに肩透かしを食らった感じになって、善逸は座る。
「あいつは倒れるまで走り続ける。止めるのは困難だ」
「知ってますよ」
「また鍛錬で倒れたら頼む」
「言われなくても」
「何を怒ってるんだ?」
「別に。なんでもないですよ」
また大人の余裕を見せられた気がして、自分のガキさに拗ねる善逸。
酒ではなくお茶をぐびっと飲む。
「拾壱ノ型を作るのを、手伝ってやってくれ」
「はい」
また外が光る。
台所から悲鳴が聞こえるかと思ったが、千代がいるから我慢したのか聞こえない。
「雷が嫌いでも、お前の事が好きだから雷を選んだんだろう……」
外を見ながら義勇が呟いた。
「どうでしょうね。……ちなみにあいつ、水も嫌いですよ。たぶん今でも泳げません」
「……初耳だ。怒られるぞ」
「嫌いな物同士を合わせて新しい技作るとか、変な奴です」
善逸も外を見る。
新技開発で、他ならぬ善逸の雷を合わせようとしていたことを単純に嬉しく思う。速さを手に入れたかっただけかもしれないけど。
新たな目標が出来た今、間違いなくあいつは突っ走る。義勇もそこを心配している。
「渡さないというなら、ちゃんとそばで見ていてやれ」
「はい」
雷鳴はだんだんと遠ざかっていった。