第3章 藤の花の家で
禰豆子の帯には、可愛い花の形の帯留めが付けられていた。薄紫色の帯留めは、禰豆子の桃色の着物に良く似合っている。
「……え?」
帯留めを見て驚く炭治郎。
「前に言ってた、お礼」
「これ……」
「炭治郎要らないって言うし。だから禰豆子に」
禰豆子は嬉しそうに帯留めをずっと指で触っている。
「禰豆子が喜ぶ物が、炭治郎の喜ぶ物だと思ったんだ。この前は鍛錬に付き合ってくれてありがとうな」
にこっと笑う光希。
すると炭治郎は、急にぽろぽろと涙を溢した。
「えっ!な、なんで泣くんだ?」
「ありがとう、光希。凄く嬉しい」
「お、おお。良かった」
「俺、禰豆子に綺麗な服を着せたかったんだけど出来なくて」
「……そっか」
「小物とか買ってやろうにも、俺には女子の好みなんて全然わからないし」
「まぁ……そうだわな」
「こんなに嬉しそうな禰豆子、久し振りに見た。良かったなぁ、禰豆子。似合ってるぞ」
炭治郎は涙を拭いて、禰豆子を撫でた。
「二人が気に入ってくれてよかったよ」
光希も嬉しそうに笑う。
禰豆子を覗き込んで「よく似合うよ、綺麗だ」と言う光希を見て、善逸は思った。
完敗だ。と。
兄貴への礼の為に、その兄が最も大切にしてる妹に贈り物すんだぜ?!しかも超可愛い小物を、だぜ?!どんだけ男前なんだよ、お前は!!むかつくぜ!!とんでもなくむかつくから参考にさせてもらうぜ!!!
善逸は心の中で叫び倒したが、完敗は完敗なので認め、黙ることにした。
禰豆子はにこにこしながら、箱へ帰っていった。
「本当にありがとう、光希」
「いやいや。こちらこそ」
「お礼と言えば、」善逸が口を挟む。
包を持ち上げて「これ、食おうぜ」と言った。
「そうだな。お茶もらってくる」
「俺もいいのか?」
「独り占めしたら俺が光希に怒られる。炭治郎も食え」
「ありがとう」
三人はお茶を飲みながらまんじゅうを食べた。
「美味いなこれ」
「うん、美味い」
「街で評判だったんだ」
「さっきの帯留めといい、光希は買い物上手だな」
「そうかな。まあ君達が女の子への贈り物で悩んだら相談に乗るよ」
そう言って爽やかに笑う光希。
それは紛れもなく美少年に位置するものだった。