第3章 藤の花の家で
「手紙書いてたのに邪魔してごめんな」
炭治郎に詫びを入れて、光希は立ち上がる。
縁側から入ってきた光希は同じ道筋で帰っていく。
裏庭に出ると「猪突猛進!」と伊之助が走り込んできた。
「お、いい所に」
「あ?」
「伊之助、これやるよ」
「なんだこれ」
光希は小さな巾着を伊之助に渡した。綺麗な水色がムラ染めされている。
「中身は、金平糖だ」
「こん…?なんだそれ」
「金、平、糖。甘いお菓子だよ。疲れた時に食べると少し元気が出るぞ」
伊之助は巾着を開いて中を見た。透明な紙に包まれた色とりどりの金平糖が見えた。
「なんか、星みてぇだ」
「はは、確かにな」
一つ出して口に放り込む。
「甘え」
「そりゃ、な。濡らすなよ。溶けちまうから。
この前鍛錬に付き合ってくれたのと、これのお礼だ」
そう言って、光希は同じような巾着からどんぐりを取り出して伊之助に見せた。
「ありがとうな、伊之助」
にこりと笑う光希。
ホワッとする伊之助。
「また、いつでも相手してやる」
「ははは、ありがと」
そう言って、光希は歩いていった。
伊之助は手元の巾着を見つめながら部屋に入った。
「良かったな、伊之助」
「おい、俺にも金平糖食わせろ」
外での会話が聞こえていたようで、炭治郎と善逸が伊之助に話しかける。
「誰がやるか。これは俺のだ」
「はぁ?ひとつくらいいいだろ。独り占めは駄目なんだぞ」
「嫌だ。やらねぇ!」
「じゃあ俺のまんじゅうもやらねぇぞ。お前の分とっといてやったのに」
「まんじゅう?よこせ!」
「嫌だ!やらねぇ!」
向かいの部屋に戻った光希は、喧嘩になっちまったか、と苦笑いしながら彼らの騒ぐ声を聞いていた。
そしてその日の夜、鴉が緊急指令を伝えに来た。
四人とも那田蜘蛛山へ向かえ、との内容だった。
翌朝早朝に出発すると決め、それぞれ睡眠と準備に取り掛かった。