第3章 藤の花の家で
「そろそろ、次の指令がくるんじゃないか?」
ご飯を食べながら光希が言う。
「ぎょえっ!まじか、またあの地獄が始まるのかよやだぁ」
「俺は早く闘いてぇ!」
「確かに、傷はほぼ全快したもんな」
「俺、明日ちょっと出かけるわ」
「どこ行くんだよ」
「買い物。足袋がもう予備の分もぼろぼろでな。草履もやばい。あといろいろ、晒しとか。仕事再開に向けて準備しなきゃな」
「お前、ずっと走ってっからなぁ」
「だから、ご飯別々で。おばあさんにも言っておくから」
翌日、朝から光希は街にでかけ、昼過ぎに屋敷へと戻った。
部屋に入り、ごそごそと準備をしている。戦いに向けて支度を整える光希を見ると、善逸は少し胸が痛んだ。
―――…こうしてゆっくりしていられるのも、後少しなんだな
昔は当たり前の様に一緒に暮らしてたけど今は違う。明日にも死ぬかもしれない生活になっちまったんだな、俺達は。
善逸はなかなか集中出来ない瞑想を解き、裏庭の石の上に座ったまま小さく溜息をついた。
そこへ、光希の音がする。
「いたいた」珍しく部屋着を着ている。
「ほれ」善逸に向かって包を出す光希。
「なんだよ」
「おまんじゅう」
「本当に買ってきたのか」
「お礼だからな。美味いって評判なんだってよ」
善逸の膝の上に風呂敷を置くと、キョロキョロとしながら歩いていく。
「炭治郎なら部屋、伊之助はどっかに走り込みに行ったよ」
光希の背にそう声をかけると、彼女は振り向いて「ありがと」と笑った。
裏庭から部屋に声をかける光希を見て、善逸も部屋に戻ろうとその場を立つ。
縁側には赤い鼻緒の真新しい草履が、きちんと揃えて脱いである。
その草履は己の物より一回り小さかった。