第3章 藤の花の家で
数日後、伊之助とも共闘を試し、弐ノ牙や参の牙には光希の呼吸を乗せられることがわかった。
伊之助は自分の技が共闘によって強化されることに喜んで、飛び回って興奮した。
「なんか、凄え!俺の技がどかーんて強くなるぜ!何でだ?とにかく凄え!!!」
「二刀に合わせるのは難しいな。でも、他の呼吸でも共闘出来ることがわかった。ありがとう、伊之助」
山で二人は話しながら休憩した。
「いい天気だなぁ……」
「でも、明日は曇だな」
「わかるのか?凄いな。伊之助は山育ちだもんな。」
「まあな」
伊之助は突然とひょこっと立ち上がり、視線の先に移動した。光希は首を傾げて伊之助の行動を見ている。何やらごそごそとしている伊之助。
帰ってくると、「ほらよ」と言って手を出した。
「ツヤツヤのどんぐりだ。やる」
伊之助の手の中には大きめのどんぐり。
傷のない、綺麗などんぐりだ。
「いいのか?」
「おお」
光希はどんぐりを受け取る。指で持って日にかざす。こんなにまじまじと見るのは子どもの頃以来だ。
「綺麗だ。確かにツヤツヤだな」
「だろ?」
嬉しそうにする伊之助。一人山で育った伊之助は、きっとこういうのが宝物なんだな、と光希は思った。
「ありがとう、伊之助。大切にするよ」
光希はそう言ってどんぐりを懐にしまった。
伊之助は「おう」と応えた。少し照れたような声だった。
二人は走って屋敷まで帰った。
屋敷に帰ってからも、光希は縁側でどんぐりを見ていた。
「なんだそれ。どんぐりか?」
隣に座ってきた善逸が聞く。
「ああ。今日伊之助がくれたんだ。キレイだろ」
「へえ。見せてよ」
善逸の手にどんぐりを乗せる。どんぐりの暖かさで、光希が暫く握っていたのだと解る。
「俺らもよく拾ったな」
「善逸が懐一杯に入れて持ち帰って、そこら中にばら撒いて怒られたな」
「持って帰ったのはお前もだ」
「二人とも、ご飯だぞー」
炭治郎が縁側に声をかける。
善逸は光希にどんぐりを返して部屋に向かう。
光希は返されたどんぐりを胸の前でぎゅっと握ってぽつりと呟いた。
善逸の耳だけが、その微かな声をとらえた。
――――どうか、皆をお守りください
と言う声を。