第21章 隠れ家 1
ブチ切れて歩く、光希。
しばらく歩いていると、後ろからしくしくと泣き声が聞こえてくる。
……こんのやろ
凄く。凄く凄く成長したと思ったのに。
昨日のお前は幻かい!と思うほどヘタレ全開な善逸に、なんかもう怒ってるのが馬鹿らしくなって脱力する。これも昔からの定番パターンだ。
「嫌だよ、光希……、俺のこと嫌いにならないで……ひっく…ぐすっ……」
「………道の真ん中で泣くんじゃねえ」
「ううぅ……婚約破棄は嫌だ……」
あ、わりと思いつめてる。
そう思ったので、光希は仕方なく足を止めて振り返る。
「お前、俺の音聞いた?」
「へ?」
「あのな。やばいと思ったらすぐ相手の音を聞け。そういう時ほどしっかりと細微な部分まで聞けよ」
「今は、怒りと呆れ」
「そりゃ、さっき喧嘩して、お前が泣いたからだ」
光希はまた歩き出す。
善逸が付いていく。
「喧嘩の前は、覚悟が聞こえたはずだ」
「覚悟……?」
「そう。お前と一緒になるなら、俺には覚悟が必要だと思ったんだ」
「……俺が、浮ついたこと、言うから?」
「そう」
「ごめん」
「俺は、寝ぼけてるときは本音のようで本音じゃないと思ってるよ」
「でもさっき」
「あれは意地悪したかっただけ」
「なんだ……」
「夢からの覚醒時は混乱しやすい。だから、別にお前が本気で禰豆子と結婚したがってるなんて思ってない。あれはお前のいつもの何気ない言葉だ」
「そう!そうなの!なんだ、光希わかってんじゃん!」
「でも聞いてて気持ちいいものじゃない。ボコられても文句は言えないぞ」
「ですよね……すみません」
浮いたり沈んだりと慌ただしい善逸。
「……だから、私は覚悟するの」
「光希……」
「今後、無意識状態のお前が何を言おうと、気にしない。たぶんこれから先もこんなことは多々ある、気がする。お前はそういう奴だ。女の子大好きだし舌の根も二秒で乾く。それは一生変わらない。努力でどうにかなるもんでもないし、抑え込んだところで何処かで噴出するだろう。
だから、そんなときも悲しくならない。へこまない。傷付かない。その覚悟。どう?わかった?」
分析結果をすんごいいっぱい喋られて、善逸はもう「……はい」としか言えなかった。