第21章 隠れ家 1
台所を出ると善逸がいた。
「あ、光希……、えっと」
「善逸、出発できるのか。忘れ物ないか」
「ああ」
「母ちゃんに挨拶」
「したよ」
「じゃ、こっち来て」
光希が走るから、そのまま善逸も付いていく。
裏庭に行くと義勇がまだ縁側に座っていた。
「ほら、挨拶。お前昨日迷惑かけたの」
光希に言われて、そうだったと思い至る善逸。
「冨岡さん、昨日はご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」
「気にするな」
「祝宴をありがとうございました。では、失礼します」
ぺこりと頭を下げる善逸。
「……仲直りしろよ」
小さくそう呟いて義勇は部屋に戻る。
光希は聞こえてなかったのか敢えてなのか、知らんぷりして寛三郎を迎えにいっている。
「善逸、家見に行くんだけど、お前も行くか?」
そう聞かれた善逸は、当たり前だろ!と言いたかったが、「うん……」としか言えなかった。
「じゃあ、寛三郎さん、お願いします」
「マカセロ!」
光希は寛三郎を肩に乗せて歩き出す。
無言で歩く二人。
朝なので、住人も少なく、さほどやり取りもせずに速い速度でてくてく歩く。
「……怒ってる、よね?」
「………」
「ごめん……」
「………」
「何とか言えよ」
「………」
「……無視は、なしだろ」
光希はピタッと足を止める。
無視はなし。
これは、今まで数え切れない程喧嘩をしてきた二人が、子どものころに決めた約束だった。
無視からは何も生まれない。取っ組み合いの喧嘩をしたほうがよっぽどましだと幼いなりに考えた二人。
だからムスッとしてても、そのままにしてしまうことはない。善逸の心の整理のために、光希が冷却期間としての猶予を与えることはあるが。
「竹林を抜けたら、だ」
恐ろしく冷たい声が帰ってきた。
「おう……」
善逸は冷や汗を垂らす。