第20章 祝宴
桶を片付け終わった光希は稽古場の掃除を始めた。鼻歌まじりで上機嫌である。
善逸も一緒に掃除をする。
「うわー!打ち込み台が全部新しくなってる!」
「へえ。冨岡さん直しといてくれたんだな」
「ぼろぼろだったから嬉しいな」
「良かったな」
「強く、ならなきゃな……」
光希が打ち込み台に手を当てながら、そっと呟いた。自分に言い聞かせているようだった。
「俺も、強くなるから。一人で抱え込むなよ」
「……なんか聞いたのか」
「別に。何も」
「……ふうん」
そう言って光希は掃除を再開する。
それはそれは念入りに掃除をする光希。善逸と二人でぴかぴかにして、満足気に笑った。
「よっし!完璧っ!ふうっ」
「お前、このくらいの熱を庭にも注いでやれよ……」
「あはは、嫌だ」
掃除道具を片付け、一礼して稽古場を後にする。
……さて、どうしようか。善逸を一人にしておくのも可哀想だしな
「俺の部屋に来るか?」
「いいの?」
「何もないけど」
とりあえず部屋に入る。
畳まれた布団と行李が一つ。鏡台と文机。
光希は押入れから座布団を出して善逸に薦めた。善逸はお礼を言って、座布団に足を崩して座る。
とりあえず二人、特に何をする訳でもなく座っている。
「ね、こっち来て」
「……断る」
「ちょっとだけ」
「やだ」
蝶屋敷では二人きりの空間は最高の癒され場所だったが、ここでは同じ条件でも光希が頑なに拒んでいる。
「なんでだよ。誰もいないのに」
「ここは師匠の家だぞ。くっつける訳ないだろ。師匠の家に弟子が男連れ込むとかどんな状況だよ。おかしいだろうが」
「真面目すぎない?」
「俺は剣術だけは真面目に行きたいの!」
「俺、頑張って一本とったのに。ご褒美ないの?」
「う……、いやその手に乗るかっ!」
光希は立ち上がる。
「部屋に連れてきたのが間違いだった。おいで善逸。客間に行こう」
「そんなに嫌がんなくてもいいじゃん、傷つくよ、俺だって」
「……ごめん。でも、駄目だ」
善逸はしぶしぶ光希に付いて部屋を出た。