第20章 祝宴
義勇は立ち上がって歩いて行ってしまった。
善逸は外した脚絆を付けずに、裸足のまま縁側でぽつんと一人座っていた。
……片付ける場所とかわかんねぇ
足を冷やしていた桶をぼんやりと見ながら、義勇が言ってたことを思い出す。
――光希は希望だ
自分の幼馴染が隊内でそんな凄いことになっているとは知らなかった。
きっと本人も、周りからの期待に押しつぶされそうになっているのだろう。でも、そんな素振りを一切見せずに過ごしている。
そんな人間と、俺なんかが一緒にいていいのだろうか……
悶々としていると、光希の気配。
「あ、やっぱり放ったらかしにされてる」
「おう」
「足はどう」
「もう大丈夫だ」
「良かった」
「連撃もありだな」「六連と合わせれば神速を使わなくても…」など、口元に手を当てて呟いている。
「本当にお前の頭は鍛錬のことばっかりだな。この鍛錬馬鹿」
「違う。俺は実践を考えてんだ。鍛錬馬鹿じゃねえ。戦いの中でどうやったらお前が生き残れるかを考えてんだよ」
「そうかよ」
「強くなったな。善逸」
「ん?」
「今日、見ててわかった。お前は俺より強い」
「それは言い過ぎだろ」
「いや、普通に戦ったら絶対勝てない」
「へぇ……強い俺を見て惚れ直した?」
「さあね。普通にやったら勝てないけど、勝つ方法はあるからな」
「あー……可愛くない」
「はいはい。そんなことわかってるでしょ」
光希は桶をズリズリと運んでいく。
善逸は手伝おうとして立ち上がるが、いいよと止められる。
庭木の所まで運ぶと、「肆ノ型、打ち潮」と言って桶を蹴り倒し、自分に水がかからないようにすばやく塀に飛び乗った。笑いながら塀の上から水が流れていく様を見ている。
塀から降りて空になった桶を持ち「庭木の水やりも終了ー」と笑う。
「片付け方、雑じゃね?」
「いいのいいの」
「桶、ぶっ壊れるぞ」
「これ丈夫なんだ」
そう言うと光希は桶を持って何処かへいった。
善逸は水を飲みながら裏庭を見た。
……びっしょびしょになってんじゃねえか。いいのかよ。冨岡さんも千代さんも怒らないんだな
蝶屋敷では考えれないような、冨岡邸のいい意味での適当さを知って善逸は笑った。
悩んでいたことが水と一緒に流れていった気がした。