第19章 宣言
「ゲホッ!」
「どうした、もう終いか」
「まだまだ」
善逸はよろりと立ち上がる。
こんなに稽古を頑張る善逸を初めて見た。
そして、『眠り』に入らないままここまで強いとは正直思っていなかった。速さだけじゃなく、力もちゃんとつけていた。知らないところで、努力してたのだと感心する。
しかし、義勇から一本となると、話は別だ。
本気を刺激された義勇はとんでもなく強かった。飛び込んでも飛び込んでも、躱され、弾かれ、吹っ飛ばされる。
「なかなか頑張るな」
「はぁ、はぁ、ゲホッ、おえっ」
「そんなに、家が欲しいか」
「欲しいです。……でも、それよりなにより、俺はあなたに勝ちたい」
善逸のその言葉に光希は驚く。
誰かに勝ちたいなどと発言するのは珍しい。鍛錬も嫌いだし、すぐに諦めるため勝ち負けにはさほどこだわらないのだと思っていた。
勝てない相手に向かっていくなんて考えられなかった。全力で相手から逃げていたが故に、逃げ足がずば抜けて速くなった奴なのに。
うえっとえずきながら、また善逸は立ち上がる。くやしさをその目ににじませながら、諦めないで足を踏ん張る。
今日は初めて見る善逸の姿に驚かされてばかりだ。目頭が熱くなる。
……こいつ、本当に俺の知らない間にめちゃめちゃ成長したんだな
家なんてどうでもいい。勝たせてやりたい、そう思った。
光希は目に溜まった涙を袖でぐいっと拭った。
『善逸、聞こえたらバレないように反応しろ』
光希は善逸にしか聞こえない小さな声でささやいた。
ピクッと反応する善逸。戦いの中、ほんの一瞬光希に視線を送る。
『よし、二人で勝つぞ』
光希は善逸にそう伝えた。