第19章 宣言
「千代さん。俺は、光希を嫁にもらいたいと思っています」
光希が想像していたもよりも五百倍くらいしっかりした声で、善逸はそう言った。
驚く光希。気配からしても緊張はしているが、迷いや怯えがない。
「俺は、この子を心から愛しています」
善逸がちらっと自分に目線を送って来るのがわかった。
「もちろん今すぐ結婚するわけではありません。俺も光希もまだ修行中の身。しかしながら、この子が母と慕う貴女には、是非ともその旨ご承知いただきたいと思い、お伝えに参りました」
善逸は深々と千代に頭を下げた。
正直、度肝を抜かれた。
こいつ、いつの間にこんなに強くなったんだ。
「善逸くん、光希ちゃん、顔をあげて」
千代が声をかける。
二人はゆっくりと顔を上げる。
「二人とも、ありがとうね。私なんかに頭を下げてくれて。驚いたわ」
「いえ、千代さんは、光希の大事な母上ですから」
「……ありがとう」
善逸は柔らかく笑う千代をじっと見つめる。頭の中で母上と言う言葉がぐるぐると回る。
「俺は、捨て子なんです」
「え……」
「子どもの頃に捨てられて、母は生きているのかもわかりません」
「そう……」
「……だから、光希に母ちゃんが出来たって聞いた時は、嬉しかったけど、少し寂しかった…」
「善逸……」
「はっ!ご、ごめん、何言ってんだ俺。ええと、何を言おうとしてたんだっけ……」
「善逸くん」
「は、はい」
「私はあなたたちの結婚に賛成よ」
「ありがとうございます」
「だから、あなたも私の子ども」
「……はい」
「もしよかったら、あなたも私をお母さんだと思ってね」
「お母…さん……」
「そうよ。私は絶対にあなたを捨てたりしない。だって……こんなに可愛い子だもの」
千代はそっと手を伸ばして善逸の頭を撫でる。
「どんな事情があったのかわからないけど、辛かったわね」
「ありがとう…ございます……、母ちゃん」
善逸は俯き、涙声になる。
太ももの上で握る拳が震える。
千代は善逸の肩をぽんぽんと叩き、部屋を出ていった。