第19章 宣言
冨岡邸が近付いてきた。
前に逢瀬の後に送ってもらったところまで来ると、光希はピタリと足を止めた。
「光希?」
「……善逸、ちょっとこっち来て」
光希は道の脇の林に善逸を連れて行く。
善逸が持ってくれていた荷物を受け取り、地面に置く。
「なんだよ、こんな人気のないところに連れ込んで」
善逸が笑いながらそう言うと、光希は善逸にぎゅっと抱きついた。
「何?俺、期待しちゃうよ?」
善逸は戸惑いながらも光希を抱きしめ返す。
「あのね。ここまでなの」
「何が?」
「ここを過ぎたら、もうこうやって出来ないの」
「ああ、そっか。そういうことか……」
善逸は理解したようで、光希をぐっと抱きしめた。
「だからね、ここでちゃんと言っとくね」
「うん」
「私は、善逸のことが、好きだよ。本当に、もうどうしようもないくらい好き。善逸が思っているよりずっと、私は善逸の事が好きだよ」
「うん」
「可愛くて、優しくて、泣き虫で、我儘だけど……そんなところも全部、全部大好きだよ」
「うん」
「……よし!全部言った!」
ふぅ、と光希は息を吐く。
善逸は抱きしめていた身体を少し離し、光希の顔を見る。
「おお、なんかスッキリした顔してんな」
「うん!言いたいこと言い切ってスッキリした」
「あんまり言ってくれないもんな」
「そう?」
「そうだよ、いつも俺ばっか」
「そっか」
善逸は光希の頭を撫でる。
「光希、ありがとう。ちゃんと言葉で伝えてくれて。俺が今後不安にならないように、だよな」
「それもあるけど……、言いたかったの、善逸に。好きだよって」
「ははは、知ってるよ」
「それでも!言いたかったの」
善逸は光希の肩を掴み、口付けをする。口を離しても、またすぐに口を塞ぐ。
何度か繰り返して、ぐっと抱きしめる。
「俺も光希の事、大好き。これからもずっと、ずっと大好きだよ」
「……知ってる」
「言いたかったんだよ」
少しの間抱きしめ合う。
そして、その手が離される。
「……いいか?」
光希は荷物を持って、善逸に聞く。
「ああ」
善逸が頷く。
林を出る二人の手はもう繋がれていなかった。