第17章 友が起きるまで 3
部屋を出るとアオイを探す。一日の雑務を終えて寛いでいるアオイに声をかけると「どど、どうしたんですか!髪!髪!」と騒がれた。
笑いながら説明をして、縁側で髪を揃えてもらう。
「はぁ……切りますか?普通。自分で」
「え、変ですか?」
「変です!でも、光希さんならまあわりと、意外ではないです」
「あはは。アオイさんがいたから」
「?」
「ここには器用なアオイさんがいてくれるから、俺は安心して切れたんです」
「………」
「どんなにザンバラにしても、きっと上手に整えてくれる」
「………」
「ここには胡蝶さんがいて、アオイさんがいて、カナヲがいて……なほ、きよ、すみもいる。俺はこの蝶屋敷が大好きです」
アオイがぐっと喉をつまらせる。
「……どのくらいの長さにしますか?」
「そうだなぁ……肩のちょい下くらいで揃えてもらえますか?この辺でもギリギリ縛れるくらいで」
光希は後頭部に拳をあてる。
「わかりました」
「お願いします」
アオイは、光希の髪を濡らし、櫛で整え、ハサミで髪を切っていく。
光希は下腹部に鈍痛を感じながら、大人しく座っている。髪を触られることが心地良い。そっと目を閉じてハサミの音をきいていた。ここで過ごした事をゆっくりと思い出していく。
「アオイさん、ありがとう」
目を閉じたまま、そっと呟いた。
アオイが小さく息をのむのがわかった。
「こちらこそです」
アオイから返ってきた声は涙が混じったものだった。
「できましたよ」
切り終わったアオイの目に、もう涙はなかった。
アオイは目にかかっていた邪魔くさい前髪も切ってくれたので、視界が広がった。
「ありがとうございます」
「会心の出来です!」
「あはは、やった!」
縁側に散らばる髪の毛を集めて掃除をする。
「もう、行かれるのですか」
「数日中には」
「そうですか……またいつでもいらしてくださいね。怪我以外で。
いつでも皆、居ますから」
「はい。また来ます」
掃除が終わると光希はお礼を言って、細かい毛を落とすために風呂に行った。出血があるため湯船には浸からないが、髪を洗いながらその短さを実感する。
これで、旅立てる。
光希はそう思いながら、髪にお湯をかけた。