第3章 藤の花の家で
「ありがとうございました」
そう言って光希は伊之助にぺこりと頭を下げる。
いてて、と背中を擦りながら、縁側へと戻る。
「あーくやしいな。ちくしょう。判断間違えた。後ろに飛び退けばよかったんだ。…いや、違うな。その前の蹴りが甘かったんだ」
歩きながらぶつぶつと繰り返す光希。頭の中は戦いでいっぱいだ。
「おい、伊之助。あんなに強く蹴っちゃ駄目だろ、女の子だぞ光希は」
「なんでだよ。あいつがやろうって言ってきたんだぜ」
「に、してもだ」
「あいつ、そこらの男より強いぜ。俺もこの前一発食らってるしな」
「でも、駄目だ」
炭治郎と伊之助がそんなことを話す。そこへ善逸が会話に入っていった。
「炭治郎……。それ、きっと光希が最も嫌がるやつだ」
「え?」
「あいつ、たぶん女だからって手加減されたりすんの、めちゃめちゃ嫌がる。馬鹿にされたとしか思わないだろうな」
「でも……」
「伊之助、相手してやってくれてありがとな。手加減してないだろ?」
「勿論だ。俺はかかってくる奴には容赦はしねぇよ。女だろうと関係ねぇ」
「よかった。これからもそうしてやってくれ」
「おう」
「さて、少し様子を見てくっかな」
善逸は光希の去った方を見る。
「あいつ負けず嫌いだから、きっとすげー悔しがってると思うんだ」
「善逸は光希のこと、何でもわかるんだな」
「単純なんだよ、あいつ」
はは、と笑って歩いていった。
善逸がひょこっと顔を出すと縁側で寝転ぶ光希がいた。足は庭に降ろしている。
善逸は隣に腰掛けた。
「くやしい」
「蹴り飛ばされてたな」
「ちくしょう」
「体力差もあったな」
「背中が痛ぇ」
「当たり前だ。怪我が治ってないのに手合わせする方が悪い」
「実践だったら怪我してても戦うだろ」
「………まぁな」
「くやしい!!ちくしょう!!背中が痛ぇ!!」
「うん。……で?」
「……次は負けねぇ!!!」
そう言って起き上がる光希。
「早く鍛錬したいなー」
――…ふりだしに戻ってんじゃねぇか。全く、こいつは……
善逸は呆れながら「とりあえず治さないとな」と、先程ここで炭治郎が言ったことを言う。
どんだけ言っても聞きゃあしないんだろうがな…と思いながら。