第3章 藤の花の家で
炭治郎と善逸が心配して見に来ると、光希と伊之助は既にがっつり手合わせをしていた。
はぁ…と善逸は頭を抱える。
「あいつ、安静とか出来ないんだよ……どんだけ言っても無理なんだ」
「鉄砲玉みたいな娘だな……」
二人がそんな話をする中、伊之助と光希は手合わせを続ける。
「二人とも、楽しそうだな」
炭治郎が言う。
伊之助の表情は見えないが、楽しいというオーラが出ている。光希はもう見るからにイキイキとした顔をしている。
「……全く、何が楽しいんだか。馬鹿だよ、馬鹿」
そう言って、溜息をつきながらも光希から決して目を離さない善逸。怪我をしないか心配してることに気付いた炭治郎はクスッと笑う。
そんな観客のことなどお構いなしに手合わせを続ける光希と伊之助。前に一度戦っているので、お互いの攻撃はなんとなくわかっている。
ほぼ、互角の攻防が繰り広げられていた。
だが体力の落ちている光希が先に隙を見せた。伊之助に出した蹴りを流されてバランスを崩す。そして伊之助の左からの蹴りを思わず左手で防ごうとした。
―――……左手は駄目だ!!!
光希は咄嗟に左手を庇い身体を右に回転させる。伊之助の蹴りが光希の背中に入った。
そのまま光希は伊之助の蹴りの威力で激しく吹っ飛んだ。
「「光希っ!!」」
炭治郎と善逸が駆け寄る。
そのあまりの吹っ飛び方に、伊之助も少し焦る。
「くっそぉー……はぁ、はぁ、…いってて」
背中を擦りながら立ち上がる光希。ちゃんと受け身をとっていた。側に寄ってきた二人に目もくれず、伊之助を見つめている。
その姿に、まだ交戦中なのかこいつは、と善逸は思い、炭治郎を連れて少し離れる。
「大丈夫かよ」
伊之助が聞く。
「はぁ、はぁ……ああ、大丈夫だ。くそー。伊之助、強いな」
「お前も、なかなかだ」
「また、やろうな。伊之助」
「怪我が治ったらな」
「えー……」
「………左を狙って、悪かったな」
伊之助はそう言って、また少し緩んだ光希の包帯を締め直す。
「別に。気にすんな。わざとじゃないの、わかってるし」
「早く怪我治せ」
「わかった」
―――こいつ、手ぇちっせーな…
伊之助は包帯を結びながらそう思った。