第3章 藤の花の家で
「伊之助!」
庭木に頭突きかましている伊之助を見付け、声をかける。
「なんだよ」
「傷は痛くないのか?」
「あ?こんなもんへっちゃらだ!」
伊之助は、ふん、と威張った。
「じゃあさ、ちょっと手合わせしねぇか?」
光希がいたずら少年のような顔をして声をかける。
「お前まだ手ぇ治ってねぇだろ」
「手は使わない。蹴りだけでどうだ。頭突きもあり。俺もお前の肋は狙わない」
「……いいぜ!」
伊之助が手合わせを承諾する。
「あ、そうだ。ちょっとこれ結んでくれるか?しっかり固定しとかねぇと、傷に響くんだ」
そう言って、光希は伊之助の目の前に駆け寄り、左手を出す。伊之助は「これか?」と光希の添え木を止める包帯に手をかける。緩んできている結び目を一度解き、きゅっと締め直してくれた。
手首がしっかり固定された。
「ありがとう、伊之助」
にこりと笑う光希に伊之助はホワッとした。
――……なんだこれ。こいつに礼を言われると、なんだかホワホワする
伊之助は自分の感情に少し疑問を持ったが、頭をぶんぶんと振って「やろうぜ」と構えた。
「おう!」と嬉しそうにする光希。久し振りに手合わせが出来ることを心底喜んでいるようだ。
伊之助も被り物の中で、少し笑った。