第17章 友が起きるまで 3
光希の鴉が飛んできて、肩に止まる。
「お疲れ様」と光希が声をかける。
「光希、どうする」
「とりあえず今日は蝶屋敷に帰ります。炭治郎がまだ起きないんです」
「そうか」
「でも、近々義勇さんのところに戻りたいと思っていますが、よろしいですか?」
「構わない。お前が戻ってこないと千代がうるさくて仕方ない」
「あはは。母ちゃん、会いたいなぁ。話したいことが沢山ある」
「お前がいない屋敷は、静かだ」
「……どっちの意味だろう。ああ…、またこの言葉読み合戦の日々が始まるのか」
「推察能力が上がっていいだろう。今日の作戦も見事だった」
「お褒めにあずかり光栄です」
「気を付けて帰れ」
「はい、ありがとうございました」
光希はぺこりと頭を下げて帰路につく。
くたくたに疲れている。
気力が限界だった。久々の任務で張り詰めていたのだろう。
早く善逸に会いたい。
そう思って、疲れた足を動かす。
やっとのことで蝶屋敷に着く。
「只今戻りました」
言い切る前に、善逸が走り込んでくる。音で帰宅がわかったか。
「お帰り、光希。お帰りっ……良かった、無事に帰ってきて」
光希の首にしがみつく善逸。
涙を流している。
「おい、汚れる。鬼の血が……」
そこまで言って、光希は息を飲む。
「善逸……!!」
「うん!うん!昨日だよ」
「本当に……」
「ああ!」
善逸はすっと離れる。行ってこい、と言っているようだ。
震える手で草履を脱ぐ。
玄関にあがると廊下を一気に走る。疲れは全て吹き飛んだ。
炭治郎の部屋に入る。
そこには身体を起こした炭治郎がいた。
「あ、光希!」
「炭治郎……」
「おかえり!任務だったんだよな。怪我ないか?」
「た、んじろ……」
「お、おい、どこか痛めたのか、光希?」
炭治郎が、起きている。
赤い目がこっちを見ている。喋っている。
涙が、溢れた。
絶対に人前で涙を見せない光希が肩を震わせて泣いている。
袖で見せないように必死で顔を隠す。必死で堪えていても「……うっ、ひっく…」と声が漏れる。
「……光希…」
「泥だらけだから、着替えてくる!!!」
光希は部屋を走り出た。