第17章 友が起きるまで 3
「光希」
木の下から声がかかる。
急いで木から降りる。
「交代だ」
「え、まだいいですよ」
「俺は体力お化けだから、もういい」
やべ、と苦笑いする光希。
「ありがとうございます。ずっと見てましたが、鬼の気配はありません。義勇さんもゆっくりしててください」
光希は寝ている鴉を抱き上げ、先程登っていた木の下に座る。
光希は腰から刀を外して隣に置き、鴉を膝に乗せて撫でる。鴉は光希の膝の上で気持ち良さそうに寝ている。
ふと見ると、義勇の鴉はまだうとうとしている。
「寛三郎さんも預かりましょうか?」
光希は義勇に話しかける。
「頼めるか?」
「いいですよ」
光希が両手を伸ばしたので、義勇は寛三郎を渡す。
光希は寛三郎も膝に乗せ、自分の鴉と同じように撫でた。うっとりする寛三郎。
光希の鴉は膝を半分取られてムカついたようで、寛三郎をゲシっと蹴った。
「こら、喧嘩すんな」
光希に怒られて、ふんっと鼻をならす鴉。
寛三郎は蹴られても幸せそうな顔で寝ていた。
「よーしよし、いい子だ……」
二羽の鴉を撫でながら、光希もうとうとしてきている。
「では、義勇さん……少し、休ませてもらいます」
「しっかり休め」
「ありがとう、ござい、ます……」
戦線離脱前は、二日ぐらいは寝なくても頑張れていた光希。
想像以上に体力が落ちている。
木にもたれた光希の僅かに開いた口から、寝息が聞こえる。寝ながらも、膝に乗せている鴉はしっかり両手で支えている。
光希の寝顔はあどけない子どもそのもので、こうして自分を信頼して全力で寝てくれることが嬉しかった。
――『光希と結婚したいと思っています』
ふと善逸の言葉を思い出す。
こいつ、こんな子どもみたいな顔してるくせに婚約者がいるんだよな、と思う。
………我妻、今は俺の方がこいつの近くにいるぞ
「悔しかったら、俺より強くなるんだな」
義勇はそう呟くと、くるりと光希に背を向けて切り株に腰掛ける。
いつものように無表情で周りへ意識を飛ばすが、妹を取られたような、なんとなくもやもやする気がしていた。