第16章 友が起きるまで 2
翌朝、善逸はチュン太郎を肩に乗せて出発していった。
出発時は思ったより冷静で、光希に指一本触れることなく「行ってくるわ」とだけ言った。
光希は「ご武運を」と一礼して送り出した。
「あいつ、騒がなかったな」
「そうだな」
「お前がいたからかな」
「どうだろうな」
共に見送りに来ていた伊之助が不思議そうな顔をした。
「善逸なりに、覚悟したんじゃないか?」
「ふぅん、そういうもんかな」
光希は伊之助と並んで屋敷に戻る。
「手合わせしようぜ、伊之助」
「おう。今日は勝つ!」
不安の中、共に待ってくれる友の存在がありがたく、光希は笑った。
きっと無事に帰ってくる。
信じて待とう。
伊之助と木刀を合わせながら、祈るように自分に言い聞かせた。
日が暮れると、街外れの森で善逸は鬼に遭遇した。想像よりでかい鬼だ。
久し振りに鬼を目の当たりにして「ひっ…!」と声がもれた。途端に全身が震えだす。
「なんだ?鬼殺隊だと思ったらガキじゃねえか。ははは、震えてやがる」
「ふっ…はっ、はぁっ……、」
「弱っちそうだな」
膝が震える。
「ま、仲間呼ばれても厄介だ。とっとと食うか」
鬼が手を伸ばしてくる。
身体が緊張で動かない。
『善逸は強い』
『この中で一番速い』
光希の声が聞こえる。
ガチガチと音をたてる歯をぐっと食いしばる。
震える手に力を入れて、刀の柄を握った。
………帰るんだ
『みんな怖いんだ』
『善逸は絶対大丈夫』
シィィィと息を吐き、震える足に力を込める。パチッパチと小さな電撃が足元で弾ける。
………あいつの元へ
「なんだ?何かすんのか?いいからお前も早く俺の腹ん中入れや」
「るせーよ……」
「は?」
「誰がてめえの腹ん中なんかに入るか!俺には、」
善逸の変化と大気の揺れで、鬼は怯んだ。
『あなたのことを 待ちましょう……』
「待っててくれる人が、いるんだよっ!!」
善逸が叫ぶと、一瞬の光と共に鬼の首が吹き飛んだ。
ごろりと背後に首が落ちてきた。
善逸は眠りこそしなかったものの、恐怖が勝ちすぎてやはり一連の流れを理解できず、
「うあっ!何でっ!何で鬼死んでんのっ?誰がやったの?やだ怖っ!」と一人で喚き散らした。