第16章 友が起きるまで 2
「よし、いくらでも持っていけ」
光希は善逸を抱きしめ返す。
善逸の腕は震えている。
「ね、光希、歌って」
「歌?」
「……昔、歌ってたやつ」
「ああ、いいよ」
光希は善逸を抱きしめたまま、歌い出す。
透き通った美しい声だった。
待ちましょう 待ちましょう
あなたがここに帰るまで
待ちましょう 待ちましょう
いつまでも
いつか 夢みた場所へ 行く日まで
あなたのことを 待ちましょう…
歌い終わると善逸の震えが止まった。
「わぁ……ははは、懐かしいな……」
「だね」
「……待っててくれな」
「もちろん」
善逸は光希の唇にそっと口付ける。
「好きだよ、光希」
「私も」
「……よし!」
「珍しく前向きだな」
「今はな。たぶん明日の出発前にはまた震える。仕事前は気持ちの浮き沈みが激しいの俺」
「あはは。わかるよ、俺もだ」
「お前も?いつも平然としてるのに」
「そうか?見せてないだけだよ。不安だし、震えるよ。きっとみんな怖いんだ。命懸けだもん」
確かに今の光希は言葉も男と女を行き来している。不安定のようだ。
「大丈夫、大丈夫。善逸は絶対大丈夫。明日の鬼は激弱だから」
「はは、根拠ねぇじゃん」
「ある!私の勘がそう言ってる!凄まじく弱いから。善逸なら余裕だよ。油断は駄目だけどびびんなくて大丈夫」
「そうかぁ、お前の勘は当たるからな」
「おうよ、任せろ!」
ふぅ、と息を吐く善逸。
「じゃ、明日早いから寝るわ」
ベッドから立ち上がる。
「うん、おやすみ」
「おやすみ。ありがとな」
もう一度優しく口付けをして、善逸は部屋を出ていった。
気配が消えてから、光希は大きく息を吐く。
ちゃんと励ませただろうか。変なこと言わなかっただろうか。不安がよぎる。
死地へ向かう恋人を後押しすることしかできないもどかしさを抱えながら、光希は天井を見上げる。
大切な人が出来るということは、これから先何度もこの恐怖を味わうということだ。
今までも数多くの仕事をしてきたが、それはお互いの知らないところでだった。こうして目の当たりにして送り出すのは初めてだ。
光希は新たな恐怖と戦う覚悟をした。