第16章 友が起きるまで 2
砂時計が、ひっくり返ると同時に走り出す伊之助と善逸。
光希は軽めに走りながら、状況を見る。
やはり善逸の足は素晴らしく速く、体力の戻っていない伊之助では追いつけない。しかも伊之助はさっき一本手合わせしたところだ。善逸は危なげなく躱していく。
光希のやつ、何か企んでるな……
善逸は伊之助から逃げながら、光希の様子を気にしている。
光希はちらっと砂時計を見る。
「制限時間、あと半分!伊之助、壁に追い込むぞ!」
伊之助に指示を出し、光希は走り始めた。
「おう!」
伊之助が光希の指示に従い、壁に善逸を追いやる。善逸が逃げないように、光希も壁伝いに走り、部屋の角に追い込んだ。
「……ちっ」
背後に道がない中、二人に追い詰められ、冷や汗を流す善逸。
「よし!追い詰めたぜ!覚悟しな」
「へへへ、流石のお前もきついだろ」
……チンピラじゃねえか
じりじりと近寄る二人に、怯える善逸。
せーの!で飛びかかる光希と伊之助。だが、捕まえたはずの善逸がいない。
「は?」
「えっ?」
伊之助がびょんと飛んだ為、それを予測していた善逸はその瞬間高速で足の隙間を滑り抜けた。
気付いたときには善逸は二人の背後を走っていた。
「よし!抜けた!ギリギリだった!ひぃ!」
「おい、紋壱、まじかよ……」
「速いっつーの……追うぞ!伊之助!」
また二人は追いかけ始める。
光希も全力で走る。ニ方向から攻められても善逸は足首を上手く切り替えしてじぐざぐに走り、器用に逃げる。二人は何度も手を伸ばすが、ギリギリで躱されて捕まえられない。
光希がちらっと砂時計を見ると、ちょうど砂が落ちきったところだった。
「はぁはぁ、そこまで!やめ!!」
声をかけると善逸も伊之助もその場にバタリと倒れた。光希も座り込む。
「ぜぇ、ぜぇ、ニ対一、は、きつい……はぁはぁ、おえっ……」
「はー、はー、くそっ、体力が、落ちすぎだ、」
「はぁっ、はぁっ、悔しい。行けると、思ったん、だけど……やっぱ、速いな……」
三人は暫く立ち上がれなかった。
すみが稽古場に来て「何事ですかっ?!」と慌てる程だった。
へとへとになったので、鍛錬は一度ここで終わりとなった。