第14章 両親
善逸はしばらく震えながら泣いていたが、アオイに声をかけるため、部屋から出ていった。
まだ走ることができず、松葉杖をついているので、躓いたりよろけたりしてドタドタと騒がしい。
光希は、起き抜けのぼんやりとした頭で、それを聞いていた。
――父様、母様。私の信頼できる人って、この騒がしい奴ですか?
「アオイちゃーん、光希が、起きたー……起きたよおー……すぐ来てぇ…うわあああん」
善逸が廊下で泣きながら叫んでいる。
――泣き虫で、うるさくて、なにかとやばめの奴ですが、これで合ってますか?
また部屋へ戻ろとしたのだろう。ガタンと大きな音がして「いてぇっ!」と叫んでいる。こけたか。
――弱っちくて、へたれで、どちらかというと阿呆の部類かと思われます…頭も黄色くておかしなやつです……
部屋に戻り、足を引きずりながら「アオイちゃん達、すぐ来てくれるからな。もう大丈夫だから」と泣きながら笑う善逸。
―――でも、優しいです
「……善逸の声、聞こえてた」
――――雷みたいな人です
「やかましい声が、……ずっと」
―――――私の闇夜を切り裂く閃光です
「ありがとう」
光希はふわりと笑いかける。目から涙が溢れた。
「おかえり、光希」
「……ただいま、善逸」
「帰ってきてくれてありがとう」
「どう、いたしまして」
善逸はベッドに近付く。
光希の涙を、指で優しく拭う。
「……愛してるよ、光希。もうどこにも行かないで」
顔を寄せ、頬にそっと口付ける。
「口は、まだ駄目。本当はほっぺたも駄目なんだろうけど、内緒な」
善逸はいたずらを隠すみたいな顔で笑う。
昔からよく見た顔だ。
「わかった。内緒ね……」
―――――この人と手を繋ぐと安心します。あなたたちと繋いだときと、同じ感じがします
「善逸、ありがとう。大好きよ……」
―――――私は、この人が、いいです
善逸はアオイ達が飛び込んでくるまでの間、光希を優しく撫でてくれた。